ご挨拶

第5回日本公認心理師学会学術集会 東京大会 大会長
西脇 喜恵子
東京有明医療大学
今その場所から見上げる空は、どんな表情をしていますか。
広がるのは清々しい青さでしょうか。
それとも、どんよりとした雲が、そこここに垂れているでしょうか。
はたまた街の木々が大きく揺れる荒れ模様の一日なのか、いやいやすでに夜が更けて静かな星空がまったりと覆っているでしょうか。
ある日、「さて、これからどうしよう」と漠然と考えながら、昼休みに珍しく外に出て、職場近くの公園のベンチに腰を下ろしたときのこと。しばらく足元の砂を眺め、午前中のセッションの余韻の中で、ぼーっと時間を過ごしたその後に、ふと見上げた目線の先には絵に描いたような青い空が広がっていました。職場にいる心理専門職は自分一人という寄る辺なさに、ときに「さて…」と考え込む時間が続く中で、「この空の先には、たくさんの仲間がいるんだよな」と思うだけで、なんとかやっていけそうな心持ちになったのを今でも鮮明に覚えています。
2017年9月に公認心理師法が施行され、2019年2月に日本で初となる心理の国家資格「公認心理師」の有資格者が誕生しました。しかし、「さて、これからどんな資格に成長していくのだろう」と思った矢先、新型コロナウイルス感染症のパンデミックで、私たちの世界観は大きく変容しました。特に人とかかわることを生業とする私たち心理専門職にとって、相手との距離を一定におくよう強いられた時間は、支援のありようを根源的に見つめなおす機会となりました。
そして、公認心理師がその職能をもって何ができ、何ができないのか。目の前のその人に、目の前のその状況に、どのように役立つことができるのか。VUCA(Volatility:変動性、Uncertainty:不確実性、Complexity:複雑性、Ambiguity:曖昧性)とも呼ばれる、ある意味混沌とした時間の中で手探りを繰り返しながら、一つ一つをたしかめてきたのが、有資格者誕生からのこの6年あまりだったのではないかと思います。
2020年7月に設立された日本公認心理師学会は、そんな時間とともに発展してきた公認心理師のための学会です。沖縄からスタートした学術集会は、山口、静岡、千葉とバトンをつなぎ、今年度は東京での開催となります。
第5回となる東京大会は、準備委員会を「solaの会」と名付けています。「sola」はラテン語で「唯一の」「一人で」という意味があります。日々それぞれの場で心を尽くしながら仕事をしている全国の心理職一人ひとりが、広い空を見上げたその先に、多くの仲間がいることを感じられるような学術集会になればと、そんな思いを込めています。
公認心理師の業は法定義に規定されたとおりですが、資格は生き物のように時間の経過とともに成長を遂げていくものだろうと思っています。
私たちが今ここで集うことが、私たち自身を励ます研鑽の場になることはもちろん、その先の未来を担う次世代につながればと願っています。一人でも多くの方に本学術集会にご参加をいただけることを心よりお待ちしております。皆様にお会いできるのを今から楽しみにしています。