大会日程・プログラム

※登録理学療法士(更新)ポイント取得を希望される方は、
下記のカリキュラムコード一覧をご参照ください。

5月27日(土)

をクリックすると詳細が表示されます。

13:00 受付開始

13:30 開会式

13:40 セッション開始(13:00入室開始)

  • コース1~4共通

    13:40~14:30 大会長基調講演
    「キャリアの視点~Will・Can・Must」
    演者:吉井 智晴(大会長)

     キャリアとは、単なる職歴というニュアンスだけでなく、あらゆる経験が持続的・継続的に蓄積し連鎖して 構築されていくのがその本質であり、「生涯を通しての人間の生き方、表現である」とも定義されている。また、 1999年に中央教育審議会答申の中で初めて「キャリア教育」という言葉が使用され、その後準備期を経て、小 学校段階から発達段階に応じたキャリア教育が実施されている。今まで理学療法士はその専門性が高いが故に 「キャリア」ということを特段意識しなくても仕事ができていたかもしれない。しかし、変化し続ける社会にお いて、キャリア自律の必要性が高くなっている。
     明確な目標を掲げ、それに向かって計画的に人生を歩んでいるのか、理学療法士の仕事に「働きやすさ」と 「やりがい」を感じているか、と問われると自信を持って「Yes」と言えるだろうか。そこで、今回は、キャリ アの3つの視点から振り返ることにより、新たな発見や自己理解を深化させる。まずはWill:やりたいことにつ いて何でも。仕事においてやりたいこと、なりたい将来の自分など、大きな目標から、些細な希望まで含める。 次にCan:自分のできること、強みといえる特性、具体的なスキルや経験といったもの。分かりやすいところ では、登録理学療法士、認定、専門理学療法士や趣味を生かしたアロマセラピーやティラピスなど、ご自分の 「好き」なものに繋がっていたりする。3つ目にMust:すべきこと、というとネガティブなイメージに見えるが、 実はこれは、会社や社会から求められていることやWillを実現するために必要になることである。そして、こ の3つの重なりが大きいほど実現性は高くなる。
     また、キャリアに関する理論の中から、私がキャリアを考えるときに役立ったSuper, D.E.の「ライフキャリ ア・レインボー」やSchlossberg, N.K.の転機(4S理論)についても触れ、活力ある理学療法士について考える機 会としたい。

  • コース1 臨床をポジティブに ~エキスパート・アウトプット(EO)~

    司会:池澤 秀起(訪問整体院リライフ)

    14:35~15:05
    講演 脳血管障害症例に対する理学療法のポイント
    演者:網本 和(理事)

     脳血管障害に起因する徴候、障害は意識障害、嚥下障害、仏痛、感覚運動麻痺、筋緊張異常、高次脳機能障 害など多岐にわたっている。さらに発症からの病期により治療目標・課題は異なり、その重症度とニーズに応 じた様々な治療アプローチが提唱されてきた。したがって本講演ではこのような病態の全体像の一部ではある が、急性期から回復期におけるコアな課題である基本動作におけるバランス障害とその治療実践例を取り上げ 解説したい。
     脳血管症例片麻痺例においては、座位保持、立ち上がり動作、立位保持、移乗動作、歩行などの基本的な動 作の獲得は発症早期から要請される重要な課題である。周知のようにこれらの基本動作の遂行・獲得には姿勢 制御が求められる。Horak(2006)は姿勢制御について安定性と定位から構成されるものが「バランス」であり、 生体力学的制約、運動方略、感覚方略、空間定位、動的制御、認知的過程が関与することを指摘した。
     本講演ではこのようなバランス障害に対して、当該の運動・動作を支援誘導する「アシスト方略」と、運動・ 動作に対して抵抗を付加した環境を提供する「レジスト方略」の両面から、半側空間無視症例、Pusher現象例 を含めた臨床症例を対象として具体的な治療方法の例示をしつつ紹介したい。

  • 15:10~15:40
    事例報告 脳血管障害
    演者:渡辺 学(北里大学メディカルセンター)

     本報告では脳伷塞片麻痺症例について,回復期での初期評価を想定した治療展開について私の臨床思考を紹 介する.
     症例は70代男性.発症前ADLは自立.診断名はアテローム血栓性脳伷塞.病巣は右放線冠.既往に糖尿病腎 症,腎性貧血,高血圧症があり人工透析中である.発症時の主症状は左上下肢の一過性脱力であった.数日経 て麻痺が増悪したため当院に入院.入院翌日に麻痺はさらに重症化した.社会的背景として無職で年金暮らし, 団地2階で独居である.
     発症から1か月経過した時点で担当した.次の2点をポイントとして検討する.

    1.身体使用の障害に関して運動麻痺以外の要素があるか?どのように関わっているか?
     特に感覚機能と高次脳機能が障害されている可能性を脳画像から予測し,それが臨床症状として現れているのか,動作における身体使用に影響を与えているかを観察と検査で確認してみる.

    2.最優先の治療目的と方針は何か?具体的治療をどのように選択するか?
     運動麻痺の可及的回復と麻痺肢の有効使用を主目的と考えるが,予測される予後や背景因子を考慮し,長期的治療の展開を設定したうえで,現時点でどのような治療方法が最も有効かを試行錯誤しながら選択してみる. 治療法の候補として,電気刺激療法,ミラーセラピー,感覚運動循環,装具療法,を挙げてみた.

     脳血管障害に関するエビデンスや治療ガイドラインをどのように臨床に結びつけていくかを視聴者と共に思 案できることをねらいとする.

  • 15:50~16:20
    事例報告 小児脳性運動障害
    「新生児期からSynactive Theoryに基づいて介入した低酸素性虚血性脳症児」
    演者:藤本 智久(姫路赤十字病院)

    【はじめに】
    新生児の理学療法介入では,Synactive Theoryに基づいて,自律神経系,運動系,状態調整系,注意相互作 用系の行動を見極めて,児の発達の関与していくことが多い.しかし,脳室周囲白質軟化症(PVL)や低酸素性 虚血性脳症(HIE)等の発達に問題がある児に対しては,新生児期に充分に自律神経系や運動系,状態調整系等 が発達せずに,新生児期以降もSynactve Theoryを適応できる児を経験することもある.今回,Apgar Score 0/0/0で出生したHIEの児に対して新生児期より乳幼児期までSynactive Theoryに基づいて介入した事例につ いて報告する.
    【症例紹介】
    診断名:新生児低酸素性虚血性脳症.
    胎盤早期剥離により,緊急帝王切開で出生した女児.在胎37週,3178g,Apgar Score 0/0/0.生後30分間心 拍とれず蘇生を要し,挿管・人工呼吸管理となり,生後72時間まで低体温療法実施.抜管後,頭部MRIで広範 囲の脳損傷を認めた.日齢17より口腔内刺激,拘縮予防,発達促進目的でリハビリ開始.日齢26で経口哺乳可 能となり,日齢47で自宅退院.生後3ヶ月時と6ヶ月時に上気道炎や痙攣・発熱等にて,より反り返りも強くな り,State Control困難となり入院.医師と相談しながら,リオレサールを併用し,Synactive Theoryに基づい て介入,State Controlを促すアプローチを続けた.最終の退院時には,笑顔も出現,離乳食等少しずつミルク 以外も摂取可能となった.1歳時には,経管栄養も終了し,経口摂取で全量栄養摂取可能.機嫌よく,過ごす時 間が増え,寝返りも可能となり,生後2歳で通園施設へ紹介となった.
    【考察】
    本症例では,Synactive Theoryに基づいた介入で,興奮状態を落ち着けることができ,周囲や自分の身体に 注意を向けやすくなり,目標に基づいた理学療法の提供につなげやすくなったと考える.

  • 16:25~16:55
    講演 運動器疾患に対する理学療法のポイント
    演者:建内 宏重(京都大学)

     正常な関節機能は、十分な可動性、安定性と無痛性の上に成り立ち、それらの基本的3要素は相互に関連する。可動性や安定性の障害が仏痛を生じることもあれば、仏痛が可動性や安定性を低下させることもあり、また、安定性の低下が可動性低下を伴うことも多い。一般に、患者の主訴は仏痛に関するものであることが多いが、可動性と安定性は客観的な評価が可能であるため、仏痛の器質的な原因の有無を明確にするためにも、理学療法士は、可動性と安定性に関する評価を適切に行えることが重要である。
     関節や筋・伳などの多くの疾患・障害においては、メカニカルストレスをいかに制御するかが重要である。身体に加わるストレスは、過剰でも過少でも組織の恒常性を維持することに支障をきたす。特に、ある組織へのストレスの集中は、組織の構造的、また機能的破綻を招きやすいため、関節局所における各組織間および全身における各関節・筋間の協調的作用によってストレスを適度に分散できることが重要である。
     運動器疾患・障害における仏痛については、メカニカルストレスとの関係だけでなく、中枢神経機構での変化も含めた包括的なマネジメントが大切である。仏痛が慢性化すると、組織の損傷だけでなく、痛覚を伝える末梢・中枢神経系における感作すなわち過敏化や可塑的変化が関与することが知られている。慢性痛に対しては、集学的な生物心理社会的アプローチが推奨されるが、そのなかでも運動療法や患者教育などを通じて理学療法が果たすべき役割は大きい。
     本講演では、運動器疾患に対する理学療法におけるこれらのポイントについて、理論的背景とともに具体的な評価・治療内容の紹介をしたい。

  • 17:00~17:30
    事例報告 運動器疾患
    演者:宮下 浩二(中部大学)

     理学療法士が運動器疾患への対応としてトップダウンで問題点を抽出する場合、まず主訴を訴える動作を分析する。次に、その問題となる動作の構成要素を運動器機能の中から見つけ出し、症状の発生メカニズムについての仮説を立て、臨床推論を行う。しかし、動作に問題があっても、一般的な検査・測定において運動器機能に問題がないケースもある。その場合、「体の使い方」の問題という曖昧な言葉を使うこともある。
     動作や運動は、運動器のみで達成されるものではなく、「感覚器からの入力(身体感覚)」→「脳による情報統合」→「運動器による出力」→「感覚器からの入力」というループの繰り返しを基本としている。そのため、運動器に機能低下がなくても、感覚器の機能低下があれば動作に問題を来すことになる。「体の使い方」には感覚情報が正確でなければならない。中枢神経疾患では一般的なことではあるが、運動器疾患についてはほとんど議論されることはない。しかし、私が日常対応しているスポーツ選手においても深部感覚や表在感覚が低下していることは少なくない。そしてそれが動作や運動の問題を生じ、結果として痛みや不安感につながっていることを経験する。特にエクササイズやストレッチ、スキルエクササイズなど運動器機能への働きかけをしっかり行っていながらも症状の改善がない選手や症状を繰り返す選手に多く見られる。
     今回の事例提示では、感覚器機能への介入が肩関節の症状の改善に至った大学野球選手と社会人女子ソフトボール選手について供覧する。

  • 17:30~17:50
    質疑応答

  • コース2 チームをポジティブに~チームマネジメント(TM)~

    司会:湯元 均(専務理事)

    14:35~15:05
    講演 組織コミュニケーション
    演者:河合 麻美(特定非営利活動法人ReMind)

     理学療法士の働く場は病院、施設、訪問、地域、産業、まちづくりなど多様化し、その対象も障害を持った方だけでなく予防領域から終末期まで関わることが出来るようになった現在、組織のコミュニケーションは自身の組織だけに留まらずチーム医療、病院-施設間連携、地域包括ケアの多職種連携など多岐に渡り、より広く深いコミュニケーション力が問われるようになってきています。
     自分以外の他者と協働する際、その目的や目標を共有し、お互いの価値観や共通言語の理解が必要になってきます。相互のコミュニケーションが活発になることで、意思疎通の不足によって起こるインシデント、アクシデントを防ぎ、効率良く業務を進める事ができると言われています。専門性の違う多職種が働く職場も多いと思いますが、まずはお互いの専門性の把握や情報共有し、信頼できる関係性づくりをしていくことが大切です。
     安心して発言出来る環境をつくることで、コミュニケーションの活性化、アイデアやイノベーションの創出と良い循環が生まれてきます。また、世代の異なる多様なスタッフが集う職場の中で、ライフステージに合わせて育児や介護をしながらも働き続けられる職場づくりにはコミュニケーションは必須で、ひいては離職率の低下にも繋がっていくと考えられます。
     とはいえ、コミュニケーションの原点は自分自身との対話です。自身が周りからの情報をどう受け止め、どう解釈し、どう発信していくのか?「他人と過去は変えられないが、自分と未来は変えられる」自分を知ることは、他者との違いを知ることにも繋がります。
     これを機に好循環コミュニケーションの発信地「自分」と向き合う時間を作ってみませんか。

  • 15:10~15:40
    事例報告 労務管理 -定義・体系・中小組織における事例を中心に-
    演者:角田 大祐(e・ラボ社会保険労務士法人)

     本報告は、主に経営労務管理(以下「労務管理」と言う。)の分野を取り扱うものであり、3章構成によって進めることとする。
     第1章においては、先行研究を参照しつつ、労務管理の定義を確認する。そのうえで、労務管理の個別機能(例:労働時間管理、賃金管理、人間関係管理等)を体系化して紹介して行く。
     次に第2章では、中小組織における労務管理上の施策について、具体的な事例をいくつか紹介する。これらの事例は、企業顧問社労士である発表者が、実際に関わってきたものが中心である。例えば、「離職率が高いという課題を抱えていた組織が、何をやって、どう変ったのか」「力の強い経営者がいる組織で、何が起きていたのか」といったもの等を取り上げて行く。
     労務管理は企業活動上、スタッフ機能に位置づけられることもあり、何をもって成否を見極めるのかはやや困難とされている。ただし、発表者は企業顧問社労士の経験を通じて、自分なりの成否のポイントを持つようになって来ている。本章で紹介する事例を通じて、ご覧頂く皆様におかれても、労務管理の成否のポイントについて、各自ご考察頂くきっかけとなれば良いと考えている。
     第3章では、主に2022年以降の労務管理におけるトレンドを取り上げて紹介して行く。

  • 15:50~16:20
    事例報告 女性の働き方
    演者:谷口 千明(理事)

     はじめに、本事例報告での女性・男性は、生物学的性(sex)での性別を指すものである。
     昨今は多様性の時代であり、家事・育児を積極的に手伝う男性も増え、社会や家庭内での性別的な役割も変化してきている。そうしたことにより、女性に限らず男性も、ライフイベントなどに応じた働き方が求められていると考える。
     性別に関係なく、働き方は変化してきているし、変化していかなくてはならないと思っているが、今回は女性理学療法士に言及したいと思う。
     女性理学療法士では、結婚、出産・育児といったライフイベントや大学・大学院進学等でのリスキリングあるいはリカレント教育、介護といったことが、働き方に大きな影響を与えると考える。これらのライフイベント等に向き合う際の選択肢としては、公的保険制度等を利用しつつ就労を続ける、一時的に休職する、退職する、といった選択肢があると思う。公的保険制度等を利用して就労継続を選択していても、その後退職したり休職したりするかもしれない。一時的に休職を選択しても、そのまま退職に移行したり、逆に休職期間を短縮し復職したりする場合も考えられる。また、退職を選択した場合でも、後に復職することも考えられる。その時々の選択をしていかなくてはならないのである。その際に、忘れてはならないことは、職場や家族等の自分以外の自分を取り巻く人々のことである。そのことを忘れずに、自分なりの働き方、キャリア形成をしていきたい。
     女性理学療法士の働き方について、自分の経験も含め、お話したいと思う。

  • 16:25~16:55
    事例報告 ウィメンズヘルス(産前産後)のチーム
    演者:須永 康代(埼玉県立大学)

     女性のライフステージのなかでも,特に妊娠中から産後にわたる期間は身体機能の変化が著しく,腰背部痛や骨盤帯痛をはじめとする運動器症状,尿失禁や骨盤臓器脱・下垂といった下部尿路症状など,産前産後に特異的な症状が発生する頻度が高い.妊娠・出産を契機としたこれらの症状は,次子の妊娠・出産や復職にも影響を及ぼし,また出産年齢の高齢化に伴い加齢による身体変化と複雑に関連することが危惧され,予防的介入からの経時的なアプローチが求められる.
     ウィメンズヘルス(産前産後)領域の理学療法実施においては,その特性から産科や婦人科,泌尿器科,直腸肛門科等の医師や助産師などの他職種とチームを構成し,連携することが想定される.2017年に法定化された子育て世代地域包括支援センター事業では,厚生労働省によるガイドラインにおいて,配置・連携が想定される専門職として医師などとともに理学療法士が明記されており,「妊娠期から子育て期にわたる切れ目のない支援の提供」が望まれている.これは理学療法士の職域拡大と専門性発揮につながるチャンスと捉えられる一方で,産前産後の理学療法に関してはエビデンスの面での課題も多く,有効性の確立が急務である.
     今回,我々がこれまでに行ってきた妊産婦を対象とした基礎的研究をはじめとする理学療法研究の実践と,その成果をもとに展開してきた臨床や地域での予防を含む理学療法介入について,チームの構成や連携に関する事例をふまえて報告する.本大会テーマに基づき,理学療法士の活力とキャリア形成につながる一助となれば幸いである.

  • 17:00~17:30
    事例報告 がんのチーム
    演者:北原 エリ子(順天堂医院)

     がんは身体のあらゆる部位に発生し、がんの種類と進行度から手術療法・化学療法・放射線療法・免疫療法などが適応される。手術療法が適応になる場合とならない場合があり、化学療法・放射線療法への感受性ががんの種類によって異なり、さらに発見された時期により適応される治療が異なるため、我々理学療法士が出会うがん患者の症状と予後は様々である。がんのリハビリテーションは予防的・回復的・維持的・緩和的リハビリテーションに分類される(Dietz,1981)。どの時期の、どの観点のリハビリテーションにおいても、症状悪化のリスクを回避し、患者・家族が望む生活を送れるように、身体・認知機能を評価し、患者・家族の希望に沿ったリハビリテーションプログラムを立案・実践することが求められる。その実践のためには、患者の症状とリスク、生命予後、機能予後について、医師・看護師・薬剤師・心理士等の多職種とともに情報を共有することが重要である。多職種チームにおいて理学療法士として役割を果たすためには、あらゆる器官に発生するがんの特性から脳神経系、循環器系、呼吸器系、運動器系等、全身器官の機能とリハビリテーションに関する知識と技術が求められる。順天堂医院では骨転移を有するがん患者が、病的骨折や脊髄麻痺などの骨関連事象(Skeletal Related Events: SRE)のリスクを最小限に生活の質を向上できるよう、2011年にSREチームを立ち上げた。これまで1000例を超える患者に対して、腫瘍整形外科医、リハビリテーション医、理学療法士、作業療法士を中心に回診とカンファレンスを実施してきた。本セッションでは、がんのチームにおいて理学療法士が実践する基本的な理学療法評価とアプローチについて解説する。

  • 17:30~17:50
    質疑応答

  • コース3 自分の将来をポジティブに ~セルフデザイン(SD)~

    司会:小川 克巳(理事)

    14:35~15:05
    講演 理学療法士教育の将来
    演者:白石 浩(常務理事)

     理学療法士の教育については、文科省と厚労省の共同省令である「理学療法士作業療法士学校養成施設指定規則」(以下、指定規則)で、教育内容、修業年限、教員の要件等の基準が定められている。
     前回の指定規則改正では、総単位数が見直されるとともに、専任教員や臨床実習指導者の要件等が見直された。総単位数は93単位から101単位へと増加し、新たな「理学療法管理学」が追加された。
     専任教員については、従来は5年以上の経験があれば教員になることができたが、厚労大臣が指定した研修会の受講を義務づけるなど新たな要件が追加された。
     臨床実習については、通所リハ・訪問リハの実習を1単位以上行うこととされたが、訪問看護ステーションからの実習が認められていないため、実習地の確保で難渋しているとの声も多い。
     臨床実習指導者については、2日間16時間の講習会受講が要件として追加されたが、ハラスメントと負荷のさじ加減が難しいなど実習指導で悩んでいる指導者も多く、一方では、受け身的な実習が多く、学生の課題発見力が低下しているのではないか、などの教員の声も聞かれる。
     前回の改正では、国際的な教育水準も踏まえた検討の必要性が議論された。世界理学療法士連盟(WPT)加盟国の8割以上は学士以上の教育レベルであり、本会においても2018年の総会で「理学療法士養成課程の4年制大学化推進」が決議され、教育水準の国際化が望まれている。
     また、WPTの定義では理学療法士が活動する領域には、健康増進や予防が含まれており、職域の広がりも視野に入れ、公衆衛生への関わりを重視した見直しも期待される。

  • 15:10~15:40
    講演 理学療法士の業務としての理学療法の「核」
    演者:大工谷 新一(副大会長)

     理学療法の「核」の設定事業(以下,本事業)は,前身である理学療法士業務の「核」の設定委員会の答申を受けて,継続的,かつ具体的な議論を行った.諮問の趣旨は理学療法の定義・解釈と理学療法士の業務,関連する社会的な課題と解決方法,法改正までのロードマップであった.
     本事業では以下を議論の視点とした.すなわち,理学療法士の判断が生命安全へ及ぼす危険についての予見性によるものか否か,医療行為では治療効果が見込めるものであって繰り返し行われているものであるか,社会通念上,理学療法士が行うべきであると認められる行為であるかとした.理学療法士の業務の分類は,医学的リハビリテーションとしての理学療法,医学的リハビリテーションには含まれない理学療法,処方や指示,ケアプラン等に付して行われるもの,評価,機能評価,アセスメント,(理学療法的)指導とした.これらの他に,治療補助行為,診断の補助行為,指導,他職種への処方の代行,各種書類作成の代行,その他(診療報酬算定に関する問題提起など)という分類も使用した.また,理学療法関連機器の安全使用に関する業務や運動指導・保健指導,相談,感染対策,衛生管理等の公衆衛生における理学療法においても議論した.これらの議論で抽出された業務と現時点での実態および理学療法士の将来展望との差,齟齬という問題を解決する一手段としての法改正についても議論した.
     今回は,本事業での議論の要約を述べ,参加の方々の今後のプランの一助となり,併せて協会運営へのご協力の動機付けとなることを期待しています.

  • 15:50~16:20
    講演 理学療法士の将来設計
    演者:藤本 修平(静岡社会健康医学大学院大学)

     近年、理学療法士の働き方は多様になりつつある。一昔前までは、臨床、アカデミアが主であったキャリアモデルも、現在では様々な場所で理学療法士の専門性を活かした業種・働き方が選択されている。また、起業家や企業家も増えてきている。
     選択肢が広がることで、「養成校を卒業したら白衣を着る」という固定観念が薄まる一方、選択することが難しいと感じる理学療法士も少なくないだろう。また、そもそも理学療法士が病院や介護現場以外で活躍できる具体的なイメージを持っていない者も多いかもしれない。
     そのような理学療法士に対し、本講演では筆者の経験も踏まえながら、理学療法士の様々な選択肢や働き方、提供価値を紹介する予定である。
     聴講者の中には「それは理学療法士は関係ないのでは?」と感じる内容もあるだろう。しかしながら、「これが理学療法士の専門性だ!」と思い込んでいるプロダクトアウト思考を、「社会ニーズにとっては、理学療法士もこういう場所で活躍できる可能性があるのか!」というマーケットイン思考に転換するだけで、将来への動き方がガラッと変わることを期待して聞いていただければ幸いである。

  • 16:25~16:55
    事例報告 企業1(開発系)
    演者:穴田 周吾(株式会社グローバルコンサルティング・ジャパン)

     2016年厚生労働省医政局にて医療従事者の需給に関する検討会:理学療法士・作業療法士分科会が行われた。我々の所属する日本理学療法士協会からは、理学療法士を取り巻く状況・職域や養成数増加に伴う有資格者の増加傾向などが報告され、将来の需給バランスは供給過多の可能性が示唆された。
     2022年(令和4年)度診療報酬改定の基本的視点では重点課題にチーム医療の推進があげられ、早期離床・リハビリテーション加算の対象ユニットの拡大や透析時運動時指導加算など疾患別リハビリテーションのいわゆる20分1単位以外の職域が広がった。
     また、アウトカムにも着目した評価の推進として外来リハや入院医療でのデータ提出の加算の範囲が拡大された。回復期リハビリテーション病棟でのFIM利得などに加えて、リハの診療データが医療情報として充実してきた証といえるだろう。
     私自身、診療データや自治体の調査など医療関連データの分析を行うことで、持続可能な医療制度や病院経営の支援を目指す病院経営コンサルティング企業に籍を置いているため、理学療法管理学における経営環境分析やリハビリテーション部門改善に向けた提案を業務で行っている。その際に、療法士の供給や職域と病院経営の変化について考える場面は非常に多い。また、療法士資格を取得して丁度10年が経過したが、経営環境の変化に伴い働き方を変えた同世代の理学療法士も数多く見てきた。
     本セッションでは、診療データを用いた経営分析ツールの開発及び活用の事例を通して、病院経営と臨床現場の繋がりを間近で見てきた演者が感じた“理学療法士の職域やキャリアデザイン”について共有したい。

  • 17:00~17:30
    事例報告 企業2(コンサルティング)
    演者:松本 泉(株式会社シーユーシー)

     2022年3月末の時点で、公益社団法人日本理学療法士協会会員の所属先分布をみると、会員数133,133名のうち一般企業に所属している理学療法士は160名である。7割以上の会員が病院に所属している。20年前にはおそらく一般企業に所属する理学療法士は数名であったと推測できる。
     このような現状の中で、企業で働いている理学療法士は何をしているのだろうと問われることも少なくない。
     「企業は理学療法士に何を求めているのだろうか?」企業の事業内容は様々であり理学療法士としてのライセンスが必要な場合やリハビリテーション専門職としての視点で考えることを求められる場合もあると考える。
     私は仕事の中で、次の4つの視点が重要だと感じている。それは、①専門職としての視点 ②教育者の視点③管理職としての視点 ④女性として働いてきた視点である。この4つの視点は企業で働く中で大きな力となっている。
     そして、理学療法士として病院での多くの患者様から学んだ経験、トレーナーとしてスポーツの現場での経験、管理職として病院運営、部署運営に携わった経験、養成校での教育現場の経験は現在のコンサルティング業務の要となる人材育成を行う上でその基盤となっている。
     医療・介護・理学療法教育の現場から一般企業に入職し、感じることは理学療法士+αが必要で、この+αが重要だと考えている。+αは何だろうか?私が考える+αは社会人基礎力、コミュニケーション力、自己をアップデイトし続けていく力である。この3つの+αによって企業で必要とされ、活躍できる人となりうるのではないかと考えている。

  • 17:30~17:50
    質疑応答

  • コース4 理学療法をポジティブに ~ネクストフロンティア(NF)~

    14:35~15:40
    講演 理学療法に必要な研究とは
    演者:藤澤 宏幸(日本理学療法学会連合理事長)
    司会:舟見 敬成(脳神経疾患研究所附属 総合南東北病院)

     「理学療法に必要な研究とは何か」という問いは、あまりにも根源的で、壮大な印象を持ってしまうかもしれない。しかし、あらためて考えてみると、理学療法の研究領域が細分化してきている現代にあって、最も重要なことは大局観をもって理学療法の方向性を議論することであり、その意味でこの問いかけはよいきっかけをつくってくれるように思う。
     研究とは「ある特定の物事について、人間の知識を集めて考察し、実験、観察、調査などを通して調べて、その物事についての事実あるいは真理を追求する一連の過程のこと」といえる。然らば、何のため研究かと問われれば、理学療法士が真に専門職(profession)と認められるために理学療法の学問的体系化を進めるためと答えうるだろう。一方、学問の体系化を考えた場合、大局的な議論は進んでいないのが実情である。俯瞰的に理学療法学を捉え、体系化するシステムが必要であり、それは日本理学療法学会連合(JSPT)の一つの役割であると考えている。
     そもそも学問体系を考えるうえでは、理論・倫理レベル(philosophy & ethics)、パラダイム・理論レベル(paradigm & theory)、実践・臨床レベル(practice)の各階層を縦断的に捉えることが必要となる。理学療法は目の前にいる対象者のために試行錯誤することで生まれ、それを理論化してきた。さらに、リハビリテーション医療において重要な役割を担うことで、他者の人生に深く関わるようになり、哲学的にも学問体系を考えることが必要となった。その過程のなかで、治療学としての理論構築は急速に進展している一方で、全人的なアプローチを実現するために、三つの階層を縦軸で貫くような見方は十分とはいえないのも事実である。
     本講演では、個別の専門領域における研究という視点ではなく、大局的な議論として理学療法に必要な研究を議論したい。

  • 15:50~17:30
    シンポジウム(日本理学療法学会連合合同企画)
    2025,2040へ向けた課題と展望「理学療法研究とエビデンス」
    座長:森本 榮(常務理事)

    シンポジスト:島田 裕之(国立長寿医療研究センター)
    高齢者の理学療法の課題とエビデンス

     後期高齢者の急増により認知症やフレイルをはじめとする加齢に伴い発症リスクが増す疾患や症候群の問題が大きくなり、高齢者に対する理学療法の重要性はさらに上昇するだろう。例えば認知症においては、2019年に世界保健機関から認知機能低下および認知症のリスク低減のためのガイドラインが公表され、生活習慣病の管理、バランスの取れた食事、運動習慣、認知トレーニング、禁煙、社会交流などが認知症予防のためにすべきこととして明示された。認知症予防の対象者としてmild cognitive impairment(MCI)を有する高齢者に対する集中的な予防対策が必要であることは周知となっているが、認知症発症リスクの高いMCI高齢者のみに焦点化した対策では、認知症有病率を減少させることは難しい。そのため、認知症のハイリスク者とともに、まだリスクが顕在化していない高齢者も含めた一次予防の効果的な方法の確立が課題となっている。多くの対象者にアプローチするためには、できるだけ安価で介入可能な方法を選択する必要があるが、そのようなプログラムは途中脱落や効果量の低さが問題となる。この問題を回避するためには、リハビリテーションチーム内や医工連携等の学際的なアプローチが要求される。私達の研究グループでは、デジタルヘルス技術を導入することが多くの高齢者を対象とするために必要と考え、スマートフォンを用いた活動促進プログラムが認知症抑制効果を有するかランダム化比較試験で検証を始めた。また、データベースの利活用による医療介護の連携を促進するために科学的介護情報システムの改修に取り組んでいる。これらの知見について紹介したい。

    シンポジスト:森岡 周(畿央大学健康科学部)
    2025, 2040へ向けた課題と展望「理学療法研究とエビデンス」

     2011年WPTのサブグループとしてINPA(International Neurological Physical Therapy)が設立された。INPAは神経学と神経科学に関心を持つ集団とされ、その役割は神経障害者の健康と神経理学療法士の利益を促進することと明記されている。(一社)日本神経理学療法学会では教育講演の充実を図りつつ、eラーニングや出版を通じて神経学/神経科学/神経理学療法のエビデンスを会員に一律に供給し、結果として、病態把握や意思決定の差異を縮め、対象者の不利益防止に寄与するつもりである。正確な情報供給後の共通言語による交流は、理論構築から実践検証まで、施設を超えた領域毎のイシューベースのタスクフォース形成が可能となる。これにより科学から社会実装までの戦略を研究者/臨床家/企業人が共有する仕組みができる。
     神経理学療法の対象は病態が多彩であるため多角的評価が必要である。しかし、評価法を加え続けると膨大な数となり業務を圧迫する。学会として確固たる研究成果に基づいた標準的評価を提言することによって、理学療法士の仕事の効率化を図り、会員の利益を促進したい。また病態把握のためのアセスメントとエビデンス構築のためのアウトカムを区別し、病期シームレスなリアルワールドデータを集積・解析し、それにより国民の利益をもたらすエビデンスを社会に随時公開し、それが意思決定に活用されるように働きかけたい。加えて、チーム日本を形成する中核臨床施設を学会が認定し、その施設が教育機関としての役割も担う。
     シンポジウムでは上記ビジョンを紹介し、さらに先のSoceity5.0内のロードマップも示したい。

    シンポジスト:神谷 健太郎(北里大学医療衛生学部)
    臨床研究とエビデンス ~循環器領域における現状と課題~

     団塊の世代全員が後期高齢者となる2025年、また、医療、介護、福祉のトリプル改定が行われる2024年、重要な節目を迎えることになる。高齢者人口が最大となる2040年を待つまでもなく超高齢社会を迎えた本邦において、循環器疾患患者は多くの理学療法士が対峙する代表的な患者層となっている。
     循環器領域における理学療法士による臨床研究は近年、飛躍的に増加している。10年前を振り返ると年に数えるほどしか英文原著論文はなかったように記憶している。海外と比較すると、無作為化比較対照試験は少ないものの、本邦の高齢化の実情を反映した日臨床に基づく観察研究が増え、ガイドラインに引用される研究もふえている。リアルワールドデータと呼ばれるビッグデータを用いた研究についても近年盛んに行われ、循環器領域においても主にDPCデータを用いた研究が多く行われている。日々の臨床データを蓄積し、現状の理学療法実践の妥当性をサポートする臨床研究はこれまでも、これからも重要な研究になることと思う。
     一方で、多くのこれらの臨床研究は現状の理学療法実践を肯定するための手段として行われていることが多いが、日々の臨床的意思決定に役立つ研究となっているか否かを問われると未だ十分とは言えない。複雑な症状や経過を示す個々の患者を前に、短期的、中期的な患者立脚型のアウトカムを改善する上で優先的に介入すべき事は何か、また、何をどの程度の比率でいつの時期に介入したら良いのか、これらの意思決定を科学的にサポートしてくれる研究は未だ少ないのが現状である。
     IoT機器の進歩、インターネットの高速化、personal health recordの活用等により、今まで点でしかとらえられなかった経過を線(軌跡)でとらえられるようになってきている。理学療法介入がそのアウトカム指標やサロゲートアウトカムの軌跡を変えてくれるのか、どのような介入をすればどれくらいのタイミングで軌跡が変化するはずなのか、また、介入に反応しない人はどのような人なのか、遠隔期の軌跡はどうなっているのか、様々な検証が出来るようになると考えられる。
     本シンポジウムでは筆者がかかわった最近の循環器領域の研究やレジストリーについてふれ、今後の課題について考える機会としたい。

  • 17:30~17:50
    質疑応答

17:50 セッション終了

5月28日(日)AM

をクリックすると詳細が表示されます。

9:00 セッション開始(8:30入室開始)

  • コース1~4共通

    9:00~10:00 特別講演
    「笑顔で走り続けるために」
    東京2020パラリンピック視覚障がい女子マラソン 金メダリスト
    演者:道下 美里(三井住友海上火災保険株式会社)
    司会:清宮 清美(常務理事)

  • コース1 臨床をポジティブに ~エキスパート・アウトプット(EO)~

    司会:岡山 裕美(北陸大学)

    10:05~10:35
    講演 循環器疾患に対する理学療法のポイント
    演者:加藤 倫卓(常葉大学)

     循環器疾患患者の多くは重複障害有病者であり、原疾患を含む多くの臨床所見から理学療法を実施する際のリスクの層別化を図る必要がある。運動中の呼吸や循環応答を的確に捉えることが運動処方の組み立てに影響することから、これらの応答をより客観的に捉える高い評価技術が求められる。さらに,二次予防(再発予防)に向けて、退院後の疾患管理ならびに日常生活活動(ADL)について教育的に働きかける指導能力が必要となるなど、疾患の特性に焦点をあてて,評価技術と治療技術を応用していく能力が求められる。また、近年増加している高齢心不全患者は、フレイルやサルコペニアを有する割合が高く、心不全入院により容易にADLが低下する。入院中に臥床や活動低下によって身体機能やADLの低下を生じることを入院関連障害(HAD)と呼び、HADを生じた心不全患者は生命予後が悪いことが知られている。HADの予防に向けては、早期離床や身体活動量の増加のみならず、入院中に身体機能やADLを随時評価し、嚥下障害や栄養障害なども含めた最適な介入を行うことが重要であり、循環器疾患患者に対する理学療法のポイントのひとつである。

  • 10:40~11:10
    事例報告 循環器疾患
    演者:高橋 哲也(理事)

     理学療法の対象患者の高齢化が進み、多くの患者が何かしらの循環系の不調・不全を有している。理学療法は身体に運動や物理的刺激というストレスをかける治療法であり、心拍数や血圧にも影響を及ぼすことから、運動療法を主たる治療手段とする理学療法士が循環器系の安全管理法を身に着けることは極めて重要である。特に循環動態の安定の判断や、心臓手術などで心身に強い侵襲が加わった際の身体の反応や特徴の理解は、早期からの理学療法をより安全に実施することにつながる。本セッションでは、高齢者、フレイル、循環動態、術後侵襲、運動負荷をキーワードに演者の自験例を中心に循環器疾患の診方、考え方について紹介する。
     また、運動を主たる治療手段とする理学療法士がなぜ循環器疾患に苦手意識を持ってしまうのかを、「どのぐらい運動していいかわからない」と考えてしまうのか、若手理学療法士の意見を聴取しながら冷静に判断し、解決策を実際の症例を通して具体的に提示することで、苦手意識の払しょくに努め、大会のテーマである「活力ある理学療法士~技能を繋ぐその先のキャリア」を考える機会としたい。

  • 11:15~11:45
    講演 呼吸器疾患に対する理学療法のポイント~理学療法士は何を診て、どう対処すべきか~
    演者:堀江 淳(京都橘大学)

     本講演テーマである「呼吸器疾患に対する理学療法のポイントは?」と聞かれると、皆さんは何と答えるでしょうか?ひと昔前なら、「腹式呼吸」「排痰練習」と答える方が多くいたことでしょう。さすがに、今、皆さんからそのような答えは返ってこないと思いますが、少なからず今でも一定数おられると思います。更に、看護師さんに同じ質問をすると「腹式呼吸」「排痰練習」と、答える方は未だにたくさんいると思います。呼吸器疾患の理学療法は、一部の理学療法士以外や医療関係者にも、十分に理解されていない領域であるといえます。
     近年、呼吸器疾患に対するリハビリテーションのエビデンスは確立されつつあります。その中でも、理学療法領域のエビデンスは、ほぼ確立したといっても過言ではありません。特に、慢性閉塞性肺疾患に対する理学療法は、一般的な治療手段となっており、薬物療法についで実施される重要な治療手段の一つとなっています。一方、特発性肺線維症に対する理学療法は、COPDに対するそれと比較しても、まだまだ十分であるとは言えないのが実状ですが、抗線維化薬の出現により、生命予後が改善され、その重要性が見直される可能性があります。
     本講演は、クラッシカルスタンダードな内容ではなく、科学的根拠に基づいたグローバルスタンダードな内容で構成します。加えて、最新の知見を踏まえつつ、我々理学療法士は、如何なる点に着目し、患者、障害を診ていくのか、それらに対して如何なることを考慮し、アプローチを進めていくのかを、わかりやすく解説していきます。特に、これから呼吸器疾患の理学療法に携わろうとしている皆さんには、是非、聴講いただき臨床の知の一助としていただきたいと思います。

  • 事例報告 呼吸器疾患:ペーシングの指導がADL改善につながった症例
    演者:高橋 仁美(理事)

    【はじめに】
     多発性筋炎による膠原病合併間質性肺炎で酸素化が増悪し,理学療法開始時はほとんどの ADLに介助が必要であった。しかし,呼吸に合わせた運動や動作(以下,ペーシング)を中心とした指導によって,ADLが自立レベルに改善した症例を報告する。
    【症例および経過】
     60代,男性,身長166cm,体重63kg。前医にてステロイドパルス(パルス)療法を2コース施行しても改善せず,当院に転院となった。前医に引き続き入院2日目からパルス療法(mPSL 1g/日を3日間)を2コース実施した。3日目より体位療法などのコンディショニングを開始した。呼吸困難が強く,理学療法時以外はベッドから背を離すことができず,Barthel index(BI)は25点であった。4日目からPSL60mgが開始されたが,パルス療法後も酸素化や肺野陰影の改善に乏しく,10日目からタクロリムス4mg/日が実施された。ベッドサイドでペーシングの指導を中心に行ったところ,自ら端座位になったり,ストレッチングを行ったりするようになった。ペーシングの指導で,労作時の呼吸困難が軽減し,意欲的に呼吸体操などに取り組む姿勢がみられた。医師、看護師、理学療法士で連携し離床を進め,11日目からは車いす移乗が自立し,トイレでの排便が可能となった。BIは45点まで回復し,2日目には80点,39日目の退院時には95点とADLがほぼ自立レベルとなった。
    【考察】
     ペーシングによって呼吸困難を軽減し,自己効力感を高めることができ,積極的に理学療法に取り組むことができることが示された。また,看護師など多職種の連携が重要であることが示唆された。今後もペーシングを取り入れた指導の有効性を検証し,患者のADL向上につながるよう取り組んでいくことが重要と考える。

  • 12:20~12:40
    質疑応答

  • コース2 チームをポジティブに ~チームマネジメント(TM)~

    司会:友清 直樹(理事)

    10:05~10:35
    講演 収益管理 ~部門管理に必要となる基本事項~
    演者:小澤 拓也(伏見桃山総合病院)

     収益管理とは予算・売上・原価等を管理して、利益の維持や向上に取り組むことである。
    昨今は少子高齢化や日本経済の長期低迷により、病院等の経営も不安定になりやいため、利益向上に取り組むことが強く求められるようになっている。
     医療業は人的サービスを中核とした業態であり、その利益は人が実施したサービスへの対価であり、物販業態とは異なるものである。直接の対人サービスである医療は、設備や機器は勿論のこと、サービス提供者である有資格者が医療保険に規定された人員数を担保した上で、その医療サービスを提供することが法令上の大原則となっている。
     つまり、職員の確保が利益を生み出す根幹であり、職員が安定して勤務を続けることができるような部門管理が収益管理の基礎となる。ただし、単に職員数を確保して業務を行えば良いというものではなく、医療資源たる職員をより効率的に配置・動員し、利益の維持・向上へと繋げていくことが収益管理上、部門管理者に求められることである。
     また、リハビリテーション科の部門管理者はプレイングマネージャーとしての役割期待もあることから、実際に臨床業務を行いながら、部門職員の士気を高めるためのリーダーシップ能力を発揮しつつ、収益管理・業務管理といったマネージメント業務を平衡して、そして適切に実施することが求められている。
     本講演ではマネージメント経験が浅い、あるいは今後マネージメントの役割を担っていきたいと考える方に対し、実際に収益管理や部門管理に携わる際に必要となる基本的な事項について、具体例を交えながら解説させて頂きます。

  • 10:40~11:10
    事例報告 介護事業における事業マネジメントの考え方
    演者:松井 一人(理事)

     地域包括ケアシステムの構築の重要性が、説かれるようになって久しいが、その際、介護事業におけるマネジメントを理学療法士が実行する事には、大きな意義があると考える。
     介護事業は、多職種協働で実践するものであり、その管理については、我々の専門性を超えたものが必要となる。
     そのチームで事業を運営するについては、多職種が共通の言語で意思疎通が出来る事が重要であり、その為には、立体的な教育体制の構築が重要である。特に、事業所全体で自立支援・重度化防止を実践する為に、理学療法士が適正な管理を実行する事が求められる。更に、介護事業においては、自法人以外の他サービスとの連携も重要であり、その際も、他機関との望ましい連携体制を構築する事も重要な役割である。
     そして、そのような地域連携や日々の活動を通じて、地域課題を捉え、新たな介護事業を企画し、立ち上げるなど事業創設に関する管理も、重要な役割である。
     その際には、行政機関との望ましい関係構築も重要であり、その際、日々の活動を客観的に評価し、定期的に報告を行う等、行政に対する要望事項のみでなく、事業実績を積み上げる事も、その過程の中で必要となる。  更には、地域そのものをマネジメントする為、地域住民や教育機関、政治家等との連携により、真の街づくりに貢献できる介護事業所として、位置づけられていく事が必要である。
     理学療法士は、これまでの専門性の殻を破り、地域全体を見渡しながら、事業のマネジメントする事で、力強い事業運営が可能となると考える。

  • 11:15~11:45
    講演 教育マネジメント:CREDO
    演者:内山 靖(副会長)

     医療保健職と教育職は自律性と自己裁量が高い職業である。同時に、社会からは高い倫理観と説明責任が求められ、制度や規制として明文化されることもある。
     教職を選択するキャリア・アンカーは単一ではなく、自身の理学療法士観の実践を学生に託す代理臨床実現型、学生に寄り添うことや教え学び合う教師型、教授法や教育課程に関心がある教育者型、理学療法の学問基盤や学際性を探究する研究者型、社会的信用や安定を求める承認実現型、でもしか型、などがある。他方、学生の志向は、病院での理学療法実践、スポーツとの関連、地域・国際・社会での可能性、免許取得の優位性、キャリアチェンジ、組織や地域への帰属手段、消極的・消去法的選択、などがある。
     上記の組み合わせで相乗効果や乖離が生じ、満足感や帰結(成果)に大きな影響を与える。現代社会ではそれぞれで2極化が生じやすいため、目標と対象水準の設定にも苦心する。また、学生確保と国家試験の合格という目標や指定規則の制約に加えて、他の教育課程とは異なる生涯学習との接続・整合性や将来の理学療法市場を見据えた展開科目など、領域特異的な課題が山積している。
     CREDOとは、ラテン語を語源とする職業信条や規範を意味するマネジメントの共通基盤となる。マネジメントは、自己と組織における行動目標と成果評価やコミットメントについて、個人、部門、組織、業界、国際的な視点からとらえることができ、決して管理されるまたは管理するという一方向のものではない。好奇心と楽観性は人生における計画的偶発性を手繰り寄せることにつながり、その先に私たちの未来の理学療法に夢と希望があることを身近な経験から前向きに考えてみたい。

  • 11:50~12:20
    事例報告 2020年度入学生の教育管理【指定規則改正の学年】
    演者:黒澤 和生(理事)

     2020年度に入学した学生は、指定規則改正の新カリキュラムで進めている学年である。この学年を事例対象とし、事例を取り巻く社会環境の変化として、①教育改革、②指定規則の改正、③収束しないコロナ禍などによる影響を概観して、問題解決の教育管理について述べる。
     事例対象学生を取り巻く教育環境の変化は、①教育改革による教育の変化、②指定規則改正により臨床実習形態の変化、③コロナ禍によるweb授業、臨床実習の中止・学内演習が挙げられる。特に、コロナ禍による教育管理上の問題として、指導者との情報共有・学修状況の可視化、教員業務の増大、e-ポ-トフォリオなどの実習記録の管理などの問題が掲げられた。
     これらの問題の解決策の一つとして、臨床実習支援システムの導入を検討した。実習中止が相次ぐ中、訪問にも出向くことができない状況において、教員・学生・指導者とのコミュニケーションを可能とするシステムは大変有効であった。また、デイリーノートや実習評価をシステム上に登録することで、指導者・教員とのと情報共有も可能となり、実習の円滑な実施・学習効果向上が確認できることがメリットである。主な特長をまとめると、指導者・学生・教員のリアルタイムな情報共有、教員業務の効率化および指定規則改正への対応、実習記録の一元管理である。
     コロナ禍による功罪として、実習中止や訪問中止となったが、webシステムでの会議やクラウド上での文書管理は、学習者を中心とした臨床実習の展開に有効かつ効率的であり、教員業務の効率化を後押しするものである。次期指定規則改正では、モデル・コア・カリキュラムの導入も検討されており、統一した臨床実習の実施・統一した評価表が近い将来可能と考えられ、これらの経験を教育管理の対策として生かしていく必要がある。

  • 12:20~12:40
    質疑応答

  • コース3 自分の将来をポジティブに ~セルフデザイン(SD)~

    司会:板倉 尚子(理事)

    10:05~10:35
    講演 理学療法士(協会)の国際活動
    演者:伊藤 智典(日本理学療法士協会)

     グローバリゼーションが進む社会において、国内外で国際的な活動に関わる人々が増えている。一般的に国際的な活動としては留学や、JICA等のボランティア事業への参画等が考えられるが、近年では少し変化がみえてきた。
     国外での活動としては、一般的な活動に加えて、留学してから他国での理学療法士資格を取得して病院などに従事し、その後独立された方、地元で勤務をしている医療法人が他国に病院を展開したために、海外に駐在するようになったという方、国際的な活動をする政府関連組織や非政府組織に属しながら在外で勤務する方、あるいはワーキングホリデーの制度を活用し、言語と文化にふれながら生活をする方など、理学療法士のバックグラウンドをもちつつ、多様なキャリアを形成している方も増えてきた。一方、国内でも、学術協定による所属大学の留学生を受け入れ、国際的な競技大会への参画、外国人インターンシップ、技能実習生への指導などの国際的な活動に関与する状況が増えてきている。
     日本理学療法士協会(以下、本会)の定款第4条では、本会の事業の1つとして「国際協力及び貢献に資する事業」が挙げられており、その実施地域としては、本邦及び海外の双方を想定している。内閣府に承認をうけた事業としては、グローバリゼーション、国際交流、人材育成関連の活動や、健康構想、国際協力、関係醸成関連の活動、そして国際渉外や検証などに関する活動が含まれている。これらは全て、次世代のキャリアにかかわる重要な取組みである。このたびの講演では、理学療法士と、理学療法士協会の国際活動に焦点をあてて報告する。

  • 10:40~11:10
    事例報告 海外での起業/就業
    演者:須賀 康平(FuncPhysio NY)

     私はこの発表現在、アメリカのニューヨーク州にある理学療法クリニックで就業している。日本での就業や起業と最も異なる点は、そもそもアメリカに滞在する資格を得ること自体が非常に困難であるということである。日本では理学療法士免許さえあれば病院等に就職することができるが、アメリカにおいては就職するためのVISAが必要になる。よって、アメリカの州ごとの理学療法士免許を取得していればその州で就業できると考えられがちであるが、実際はそれだけでは就業は不可能である。本セッションでは、日本の急性期および外来病院での臨床経験および日本での起業、そしてそこからアメリカでの就業にたどり着くまでの過程を中心に概説していく。そして、ニューヨークのクリニックにおける臨床内容をお伝えし、日本人らしさがどのようにアウェイの地で評価されているかにも言及する。
     アメリカで就業するための具体的な過程として私が経たものは、アメリカ、カリフォルニア州のロマリンダ大学において出身国での免許取得者向け臨床博士課程の修了、ニューヨーク州免許取得のための単位審査と国家試験の受験、そして、ピッツバーグ大学筋骨格系専門修士(筋骨格系と前庭理学療法の研鑽)および就業に必要なVISAの単位審査、である。これらの過程に想像を超える時間と費用を費やした。私の場合は英語がとても苦手だったこともあり、初めての英語力試験を2015年に受験して以来、2022年の1月にようやくニューヨークでの就職が叶った。その過程をお伝えすることで、今後海外での起業や就業に挑戦したい方の参考になれば幸いである。

  • 11:15~11:45
    事例報告 グローバル時代における理学療法士の選択肢 -国際支援を通じた職域拡大の可能性-
    演者:渡辺 長(帝京科学大学)

     昨今,新型コロナウィルスのパンデミックを始め,高齢化と生活習慣病に伴う死亡率の増加,犯罪やテロリズムのリスク,急激な気候変動と自然災害が世界各地で頻発し,甚大な経済的・人的被害を生み出している.国境を越え,世界が一つの潮流として動くグローバル化社会において一国の問題はまさに国際社会全体に関わる課題となっている.こうした時代にあって地球規模の視点を持ち,ローカルな問題解決に対処する国際リハビリテーションの取り組みは益々重要となっている.こうした背景の下、国境を越えた活動を担う理学療法士も年々増加の一途を辿り,留学や海外で働くことは現実的な選択肢の一つとなりつつある.
     2022年,理学療法士の累計資格取得者は20万人を超え,その数は世界一となっている.これまでの理学療法士の需要を下支えしてきた高齢者人口は2040年に頭打ちとなり,減少に転じることが推定されている.さらに理学療法士の需給推計(厚生労働省, 2019)によれば2040年までに理学療法士の供給数が需要の約1.5倍にも到達することが見込まれており、高齢人口も減少していくことを鑑みれば職域拡大に向けた取り組みは待ったなしの状況といえる.そうした観点からもグローバル化による海外でのキャリア形成や就労機会の高まりは,今後の理学療法士が歩む一つの道として大きなチャンスに満ちている.本講演では日本の理学療法士が主にJICA海外協力隊を始めとする国際支援の場に携わる場合の手段について紹介していく.

  • 11:50~12:20
    事例報告 オーストラリアでのフィジオセラピー(理学療法)
    -留学からダイレクトアクセス、クリニック起業-
    演者:葛山 元基(Moto Mobile Physio)

     グローバル社会と言われる近年、日本からもたくさんの理学療法士が国際協力で派遣されている。しかし、現地で免許を取り移住する人はまだ少ない。自身は国際学会での他国の療法士との交流から英語の必要性、国ごとの権限の違いに驚き、日本で約9年働いたのち2013年より、当時理学療法先進国といわれていたオーストラリアへ留学する。
     日本では臨床も研究も行い、ある程度自信があった。しかし、留学して間も無く自身の英語力のなさ、語学勉強のみで半年のはずが1年半、また金銭的な苦労からもその自信は無くなりいつ日本に戻ろうかの日々が続いた。なんとか大学院へ入学できても英語圏でない国からの留学生は1人で、友人や先生が何を話しているかわからず苦労の連続であった。大学院ではマニュアルセラピーやクリニカルリーズニングを学ぶ。このプロセスはダイレクトアクセスのあるオーストラリアではとても重要で、この患者は画像オーダーが必要か、どの組織の損傷で治癒までどのくらいかかるか、それに対して治療を組み立てるのにとても役立っている。
     大学院卒業後は、筋骨格系クリニックに就職し、現在は自身のクリニックを起業し活動している。
     オーストラリアではフィジオセラピストの権限が多く、やれることが多いのは魅力的だが、その分裁判も多く、自分の身を守らなければいけない。そのために重要なのがエビデンスである。大学院でも論文の評価方法を学び、臨床応用できる論文かの評価をすることが求められ、より良い論文を臨床に活かすことが重要である。また理学療法適応外かどうか、医師への紹介状を書くべきか等の判断も必要になるため、常に最新の知見を習得することが必要になる。

  • 12:20~12:40
    質疑応答

  • コース4 理学療法をポジティブに ~ネクストフロンティア(NF)~

    司会:上岡 裕美子(茨城県立医療大学)

    10:05~10:35
    事例報告 大腿骨転子部骨折における組織間の滑走性の理学療法の介入研究
    演者:工藤 慎太郎(森ノ宮医療大学)

     臨床現場での介入研究を行う上ではいくつかの課題がある.しかし、最も困難だと思うのは、自分達が臨床の中で持っている仮説を証明するデザインを組むことだと考えている。そこで、演者らが行ってきた大腿骨転子部骨折に対する介入研究を例に挙げて,問題点とその対策を解説する.
     1つ目は科学的言語で議論する点である。当初、仮説は「大腿骨転子部骨折の術後,発生する大腿中央外側部痛(外側部痛)は筋膜の滑走性の低下が原因になる」であった.滑走性の低下とは何を指しているか分からないワードでもある。科学的に滑走性を語るためには,滑走性を定量化する必要がある.そこで,私たちは流体の流れを解析する手法のPIV法という手法を用いて,実験を重ねて、滑走性を定量化することに成功した。
     2つ目は研究を俯瞰することである。滑走性を定量化できたのだから、介入研究として、これまで臨床で行ってきた徒手療法を行いたい。しかし、このままでは、なぜ効果的だったのかを論じられない。そこで、組織間の滑走性は大腿外側の疎性結合組織の状態が関与すると仮説を立て、横断研究を行った。その結果、皮下組織の厚みが大腿外側の組織間の滑走性に関与することが明らかになった。そこで、皮下組織の厚みを抑えるべく新たな介入方法を検討した。
     3つ目は多数の症例を丁寧に診ることである。介入方法が決まったら、最初はシングルケースデザインのABA法を数例で行い、効果を確認して、サンプルサイズの推定を行った。
     一つのことを明らかにするのは、簡単なことではない。多数の実験により、初めて明らかになる。結果を急がずに俯瞰して、丁寧な臨床を行うことが必要だと考えている。

  • 10:40~11:10
    事例報告 臨床現場での研究② 高額機器を用いない研究
    演者:久保 宏紀(甲南女子大学)

     理学療法のエビデンス構築において研究活動は必須である。“研究”と聞くと高額で特殊な機器を用いた実験的な場面をイメージする方も少なくないのではないだろうか?当然そのような特殊な機器や環境により実践される研究も存在し、非常に重要な知見が数多く報告されている。一方で臨床現場において特殊な機器を使用せず実施される研究も多く存在する。例をあげると、アウトカムの関連要因の検討や機能予後の予測に関する研究、カットオフ値などの算出などがそれらにあたる。このような研究は臨床現場のリアルワールドのデータを用いるため、臨床現場に還元しやすい結果が得られる利点がある。このような研究を実践する過程において重要なことは、客観的な評価尺度の選択と使用である。高額な機器を使用しなくても、臨床現場においても信頼性や妥当性が確認された評価尺度は多く存在し、それらを用いることで質が担保された研究の実践は可能である。また研究を企画するうえでリサーチクエスチョン(研究的疑問)の設定は重要である。これは日々の臨床場面で生じる様々なクリニカルクエスチョン(臨床的疑問)を基に、先行研究を調査したうえで、倫理面や経済面、臨床的意義、実現可能性などの条件を満たし、臨床研究の対象に発展させたものである。つまり日々の臨床の様々な疑問が臨床研究のテーマになり、問題解決につながる可能性を秘めている。本講演では機器を用いない研究について演者の研究を紹介しながら説明をする。少しでも研究に対するハードルが下がり研究活動に前向きになってもらえれば幸いである。

  • 11:15~11:45
    講演 症例報告の重要性と方法の要点
    演者:石垣 智也(名古屋学院大学)

     Evidence-Based Medicine(以下、EBM)が理学療法でも一般化するなかで、症例報告は「エビデンスレベルが低いから」と軽視されることも多い。しかし、エビデンスレベルは対象とする集団への研究結果の妥当性を反映するものであり、特徴の異なる対象の場合には、エビデンスレベルの程度で情報の優劣を判断できるわけではない。このような背景から、ある個人に対する臨床意思決定を行うという視点においては、1例に着目した検証デザインであるN-of-1試験が最も高いエビデンスレベルに位置づけられるようになっている(Guyatt GH,et al. JAMA. 2000)。1例だから劣るという安易な理解は不適切であり、個人を対象とする場合には、具体性の高い1例がもたらす情報が有益な場合もある。
     研究としての症例報告は「通常見られない疾病や合併症、一般的でない複数の疾病の合併、通常見られないあるいは紛らわしい症候学、原因あるいは帰結(あるときには驚くべき回復)が見られた症例もしくは患者数例(しばしば1例のみ)についての詳細な記述」と定義されており(疫学辞典 第5版)、その目的は新規あるいは稀な事象を報告するだけではなく、新たな仮説や臨床的教訓の生成にある。特に既存のエビデンスが乏しい領域において、まずは症例報告から仮説を生成することが、その後に続く仮説検証を目的とした実証研究へ発展させるために重要となる。つまり、症例報告は日々の臨床と研究を繋ぐものとなる。
     本講演では後の症例報告(実例)に対する理解を深めることを目的に、症例報告の重要性とその方法の要点を解説する。

  • 11:50~12:20
    事例報告 症例報告(実例)
    演者:深田 亮(千葉大学医学部附属病院)

     症例報告に取り組むにおいて重要なことはメンターとの出会いである。私は4人ものメンターに恵まれた。「この症例報告を論文にしてみれば?」これが私の症例報告を書くきっかけになったメンターからの言葉である。初めての症例報告が理学療法学にアクセプトするまでに費やした月日は約2年であり、何度も挫折しかけたことは言うまでもなく、共著者であるメンターのサポートによりアクセプトまで辿り着けた。原著論文に限らず、症例報告もサポートしてくれる共著者がいるから成り立つものだと考えている。
     臨床現場では典型的な症候にあてはまらない現象は多く、最前線にいる臨床家にしかできない学術活動の1つに症例報告がある。また、一般的に症例報告は若手が行うものという風習があるように思うが、中堅からベテランこそ率先して症例報告に取り組むべきである。その過程を後進に示すことが若手にとって最良の臨床教育のひとつとなり、延いては組織としての理学療法の質向上につながると考える。
     本発表では、実際に私が理学療法学に投稿した症例報告2編(動画を用いた階段昇降に対する解除方法の指導が復学支援に寄与した進行癌対麻痺患児の一例. 2018. 5(6).380~384)(術後早期に独歩を獲得し得た脊髄後索障害の1例. 2021. 48(3). 294~302)がアクセプトされるまでの過程を説明し、どのような流れで症例報告を作成していくかについて、実例から理解してもらうことを目的とする。

  • 12:20~12:40
    質疑応答

12:40 セッション終了

5月28日(日)PM

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13:30 セッション開始

  • コース1 臨床をポジティブに ~エキスパート・アウトプット(EO)~

    司会:野村 卓生(日本糖尿病理学療法学会副理事長)

    13:30~14:00
    講演 糖尿病に対する理学療法のポイント
    演者:栗林 伸一(三咲内科クリニック)

     糖尿病治療の三本柱は食事療法、運動療法、薬物療法である。疾患である以上、その治療として薬物療法が保険で認められるのは当然である。また、食事療法については疾病予防としての意味以外に、疾病治療としても種々疾患で保険収載され、糖尿病もその1つに位置付けられてきた。一方、運動療法は食事療法と並び、疾患予防だけでなく、疾患治療としても有効であるはずである。しかし、整形外科疾患、脳血管障害、心臓・大血管疾患、呼吸器疾患、足病変、慢性腎不全のリハビリには保険適応とされているものの、それらを発症させる最大原因疾患である糖尿病そのものには未だ保険適応はない。したがって、糖尿病患者の運動療法は、意識の高いごく一部の医療機関による集団指導か、患者の自助努力に委ねられている現状にある。
     糖尿病は万病を引き起こす疾患であること、高齢者糖尿病が増加してきていることから、糖尿病に付随する多彩な合併症のほかに高齢化に伴うサルコペニア・フレイル、認知症、骨粗鬆症、がんなどによる併発症も問題視されてきている。それらによる医療・介護両面での個人・家族・国家の負担は甚大であり、負担を最小化するためには適切な運動療法の励行は必要で、多くの患者に安全かつ確実に行うためには保険適応とすることが必要である。また、既に足腰や内臓に障害を持つ患者も多いことから、医学的知識の豊富な理学療法士による個別指導が必須になってきたとも考えている。
     今回はこれらのことを念頭に、糖尿病に対する理学療法のポイントを述べていきたい。

  • 14:05~14:35
    事例報告 糖尿病
    演者:相澤 郁也(三咲内科クリニック)

     当院は、約2,000名の糖尿病患者を中心に、生活習慣病の治療・予防を専門としているクリニックであり、糖尿病専門医・日本糖尿病療養指導士・千葉県糖尿病療養指導士/支援士等の資格をもち、糖尿病治療および療養指導に精通したスタッフが多く在籍していることが特徴である。理学療法士が糖尿病患者の運動療法に関わる事は、診療報酬等の問題で糖尿病内科クリニックでは難しい現状にあるが、当院では2020年4月より理学療法士が常駐している。
     本報告では、糖尿病内科クリニックで働く理学療法士が、クリニック内でどのような役割を担っているのか。また、どのように多職種と連携しているのかについて簡単に紹介する。そして、運動療法の専門家である理学療法士が加わった多職種連携で、良好な経過が得られた事例について報告する。

  • 14:40~15:10
    講演 神経難病に対する理学療法のポイント
    演者:菊地 豊(美原記念病院)

     理学療法評価に基づいた目標設定と介入、アウトカム測定による効果判定は普遍的な理学療法プロセスである。神経難病においては進行性疾患の特性であるびまん性の神経変性、ベースラインの経時的低下を考慮した理学療法プロセスの展開が求められる。
     神経理学療法における機能改善は残存神経系の再組織化によってなされると考えられている。この観点から機能評価においては機能改善に資する残存神経系の評価が必要となるが、神経系がびまん性に変性し全身性に機能低下が生じる神経難病では改善可能性のある残存神経系の同定が課題となる。
     目標設定においては、進行性にベースラインが低下していくため生活機能のみに焦点を当てると目標の下方修正の繰り返しによる否定的感情を強くさせる危険性がある。特に、症状進行が速い患者では理学療法に対する忌避的感情を生みやすく医学的無益性(medical futility)に陥りかねない。緩和ケアアプローチをベースとした患者の心理的適応を目指した目標設定が医学的無益性のリスクを軽減する一助となる。
     神経難病における効果判定では経過に伴う運動機能低下の抑止の度合いを臨床アウトカム指標により測定する。この測定には病型により異なる自然歴と症状進行速度の把握が欠かせない。病型把握には医学的検査に加えて患者の経過を一定期間観察した上で複数時点における臨床アウトカム指標の変化から効果判定を行う。神経難病の臨床アウトカム指標の解釈可能性の整備が一部に限られており効果判定の実施に制限があることを踏まえた対応が求められる。
     本研修会では、神経難病の理学療法における基本的プロセスの課題とポイントについて概説していく。

  • 15:15~15:45
    事例報告 神経難病
    演者:奥田 悠太(美原記念病院)

     神経難病の理学療法では、理学療法の基本プロセスである理学療法評価に基づいた目標設定と介入、アウトカム測定による効果判定を病期や症状進行速度に合わせて適宜修正しながら行うことが求められる。
     本研修会では、代表的な神経難病であるパーキンソン病(PD)、筋萎縮性側索硬化症(ALS)、脊髄小脳変性症(SCD)について病期や症状進行速度に応じた理学療法について実例報告を紹介したい。
     1例目は18年前より左手の振戦で発症した70歳代、男性PD症例。H&Y stage3で、基本動作は、On期は自立しているも、Off期は介助が必要である。上肢の寡動や上下肢と体幹の筋強剛が強く、夜間の寝返り動作や起き上がり動作の介助量軽減を目的としたリハビリテーション入院中の症例である。緩徐進行性の経過における理学療法の目標設定と効果判定をテーマに事例報告を行う。
     2例目は2年前より上肢の筋力低下で発症した50歳代女性のALS症例。基本動作は自立しているが、上肢の筋力低下が急速に進行しており生活機能の低下が著しい。外来理学療法において急速な症状進行にある症例の目標設定をテーマに事例報告する。
     3例目は20年前より書字困難で発症した80歳代女性のSCD症例。純粋小脳失調型(遺伝子検査未実施)で緩徐進行性の臨床像で、サービスを利用下での独居生活の継続を希望している症例である。理学療法のエビデンスが乏しい中での介入方法や効果判定の理学療法プロセスをいかに行うかをテーマに事例報告する。
     以上の事例報告を通して、希少性故に効果的な理学療法が未確立な神経難病に対する実践的な理学療法プロセスについて理解を深める機会としたい。

  • 15:45~16:05
    質疑応答

  • コース2 チームをポジティブに ~チームマネジメント(TM)~

    司会:肩 祥平(株式会社理学ボディ)

    13:30~14:35
    講演 質保証
    演者:豊田 輝(帝京科学大学)

     理学療法士の専門領域は,社会的な変化をその背景として広がりつつあり,それと同時に社会から質保証も求められている.特に,昨今の高齢化社会の進展にともなう健康寿命延伸への取り組みや国民の健康増進(ヘルスプロモーション)の高まりなどに伴い,医療保険制度内のリハビリテーション医療に加え,介護保険制度や医療・介護保険制度外での健康増進,予防,ハビリテーションなどあらゆる領域においても質保証が求められている.また,これら社会の要請に応えるべく理学療法士は,この20年で養成校数が約1.9倍,入学定員数が約2.4倍,国家試験合格者累計数は約5.5倍と急増してきた.この状況下において理学療法士は,専門職(プロフェッション)としての質を保証することは当然の責務であり,常にステークホルダーのニーズを的確に捉え,その期待に応答し続けることが求められている.つまり,専門職である理学療法士は,永劫不変にその“質を保証し続ける”ことが社会に対する責務であり,そのためには,自己研鑽のみならず各組織(職場や職能団体など)における「質保証システム(プロフェッショナリズム教育を含む)」の構築が必要不可欠であると考える.
     本講では,理学療法士の「質保証システム」として,個人における自己研鑽以外に養成校,職場,職能団体などの組織単位で実施されている取り組みのフレームを紹介するとともに,その課題について個人的な見解も踏まえて情報提供させていただく.
     本講が理学療法士の「質保証」について,個人・職場・職能団体など様々なレベルで再考する機会となれば幸いである.

  • 14:40~15:10
    事例報告 理学療法業務経験を活かして医療サービスの質向上に貢献する
    演者:西山 知佐(理事)

     医療の質といわれても実に多面的な概念であるため、簡潔に述べるのは難しい。WHOによると「良質な医療とは必要としている人々に根拠に基づいた医療サービスを提供し(有効性)、医療を提供しようとしている人々に対する害を避け(安全性)、個々の好み、要求、価値に応じて提供する(応答性/患者中心性)医療である」とされている。これは介護や福祉においてもほぼ同様のことが言えるであろう。指標を用いて質の可視化等を図ることが多いが、今回は医療の質を構成する特性を用いたケース紹介とする。
     演者はかつて理学療法業務に関わっていたが、現在は診断書等の書類作成を中心とした事務業務にあたっている。単に書類を作成するのみならず、理学療法業務での経験を生かして患者の評価、家族やケアマネージャーからの情報収集を行い、加えて医師をはじめとする職場内での連絡調整、役所等との連絡調整等を経て初めて成り立つ。これらは病院が提供するサービスの質として捉えられ、患者やその家族の安心感や満足感だけでなく、外部要因として地域医療や介護における評価や位置づけにも影響を与える。内部要因に目を向けると医師の事務作業をはじめ、他職種の業務負担軽減、経営管理等にも関わっていると考えられる。
     理学療法士は様々な施設で、かつ様々な形で働く今日である。もし理学療法業務から離れることになっても、その時までに培った知識や技術を生かし、社会に貢献しながら新たなキャリアを築く際の参考になれば幸いである。

  • 15:15~15:45
    事例報告 質保証の取り組み②
    演者:梶村 政司(理事)

     日本理学療法士協会では前期研修(2年)、後期研修(3年)があり、多くの会員は修了に向けて目標シートを作成している。しかし、臨床の経験年数を重ねると、年次ごとの目標(設定)が薄らぎ、さらに「登録理学療法士」の手続きを終えると、新たな目標設定が不明確になっている、という話をよく聞く。そうした内容を伺うと20歳代後半からの理学療法士としてのキャリア形成に不安を感じる。
     理学療法士は、対象者さんに様々な評価を行い、情報を集め考察を加えて「短期、中期の目標設定」をすることを業務としている。このセッションでは、理学療法士のプロフェッショナルとして成長していく中で「将来、どうなりたいのか」という個人の目標設定を行うことや、所属するチーム(組織)の成果達成に向けた過程での「質の保証」を理解する機会としていただきたい。
     「目標設定」は自分の成長を「確認する指標」であり、その設定により、日ごろからのモチベーション維持や向上につなげることを目的とする。達成後は自分磨きの完成として理学療法士の「質の保証(担保)」とすることが期待できる。
     臨床事例として某企業立病院の取り組みを紹介する。ここでは、人事考課表に反映させることを前提として、「目標管理シート」を毎年作成している。内容は行動計画を具体的に落とし込み、測定可能でありかつ期限の明確な目標や目的を設定することである。その際、上司との1on1meetingを通じ組織と個人目標を合致させ、目標を追求することによって組織目標の達成度を判定している。講演では、「目標設定」にフォーカスして「質の保証」につなげるようご提案する。

  • 15:45~16:05
    質疑応答

  • コース3 自分の将来をポジティブに ~セルフデザイン(SD)~

    司会:大渕 修一(理事)

  • 13:30~14:00
    講演 様々な領域での理学療法士の活動
    演者:佐々木 嘉光(常務理事)

     様々な領域での理学療法士の活動を推進するにあたっては、まず、会員の9割を占める、公的保険における理学療法士の仕事と安定した生活を守ることで、働きがいをもって仕事に専念できる環境をつくることが重要である。そして、急性期、在宅医療、障害児・者福祉領域など、理学療法が必要であるにも関わらず十分に提供出来ていない公的保険の領域を切り開き、国民に届くように取り組まなければならない。そのうえで、公的保険外領域において理学療法士が貢献できる領域の開拓を、積極的に推し進める事が重要と考える。
     2040年に向けては、生産年齢人口の減少に対し、理学療法士は、高年齢労働者・障害者の就労と定着支援、女性(産前産後、下部尿路尿路症状等)に対する予防と治療、地域保健(健康増進、老人保健、母子保健)、職域保健(労働安全衛生)、学校保健などの公衆衛生領域の活動、動物に対する理学療法、AI・IoT・ロボット技術を効果的に活用した理学療法など、様々な領域での発展、および普及促進のために挑戦的に取り組む必要があり、関係省庁や関係団体等の理解や連携強化も重要となる。
     また、理学療法士が活躍できる領域の拡大と同時に、職能に資する学習環境(リスキリングを含む)を強化する必要がある。さらに、指定規則にカリキュラムとして追加をして養成課程で教育できるようにする取り組みも重要である。
     これらの取り組みにより、高齢化に伴う疾病構造の変化や、生産年齢人口減少社会に貢献できる理学療法士の職業が確立され、国民によって有益であるとともに、全ての世代の理学療法士にとって、新たな働き方を選択できる、明るい未来が構築できるのではないかと考える。

  • 14:05~14:35
    事例報告 メディカルフィットネス
    演者:四家 卓也(Medical fitness Re-Birth)

     「メディカルフィットネス」は、近年医療機関に併設されるフィットネスや健康増進施設として総合フィットネスや24時間フィットネスとは差別化され、広がりを見せている。
     私共は、2016年にMedical fitness Re-Birth(以下、Re-Birth)を立ち上げ、現在3店舗を運営している。ReBirthは「wellness station」とし、理学療法士を中心に多職種協働でそれぞれのリソースを活用することで、地域の健康のハブ機能となることを目標に運営を行っている。
     日本のフィットネス人口は、人口の4%とされ、その4%の多くは総合フィットネスや24時間フィットネスで健康増進を図っている。しかし残りの約96%の方は、運動習慣を持たず、不健康リスクを多く抱える傾向にある。
     Re-Birthは0歳から100歳までをターゲットにし、運動好きはもちろんのこと、運動が嫌いな方、苦手な方の方が会員として多く在籍している。さらにRe-Birth会員は、有疾患者であるケースも多く、3次予防を主とする方やがんサバイバーの方も利用されている。このような方は、これまでサポートを必要とされながら、総合フィットネスでは対応できず、その環境がないまま運動機会に恵まれずにいた。これらが悪循環となり、日本のフィットネス人口が伸び悩んでいる一因となっていると推察する。
     Re-Birthは、上記会員を対応すべく、理学療法士が主となり、管理栄養士、アスレティックトレーナーと協働し、専門職としての知識とスキルが求められる。さらに、IOTやアプリ(オンデマンド、ライブ)等を活用し、施設内に留まらず、地域全体へのサービスへ発展させることへの可能性を見出そうとしてる。
     今回のセッションでは、理学療法士として健康産業への関わりを店舗運営とそのリソースの活用事例等を紹介させて頂きます。

  • 14:40~15:10
    事例報告 健康経営
    演者:萩原 悠太(株式会社PREVENT)

     一般企業においては、昨今の流れとして健康経営や人的資本経営など財務指標のみでなく、非財務指標のうち特に人材視点での投資や施策を求められるようになってきている。利益や売上、ビジネスとしての成長性のみでなく、そこで働く人や健やかに働く環境が社会から評価される時代になってきていることは大きな変化である。
     理学療法士視点での産業保健領域への関わり方としては、ポピュレーションアプローチとハイリスクアプローチと双方の関わり方が想定される。今回はPREVENTが取り組む職域でのハイリスクアプローチの事例として生活習慣病に対するICTを活用した生活習慣改善支援プログラムについて紹介をする。
    高血圧症や糖尿病などに代表される慢性疾患管理においては、適切な投薬治療に加えて運動や食事に代表される生活習慣管理が重要となる。スマートフォンアプリやデジタルデバイスを活用した疾病管理指導は、時間や場所に拘束されず、さらには客観的評価指標にもとづく介入を可能とする。当社でも腕時計型脈拍計を活用した運動指導や食事写真ならび食塩摂取量測定機器を活用した食事指導など保健師、管理栄養士、理学療法士などの医療専門職が遠隔で慢性疾患保有者向けに提供を行っている。
     加えてレセプトデータや特定健診結果を分析することで、保健事業におけるインパクト評価(脳心血管疾患発症予防、医療費適正化効果)をも行っていることも特徴である。これらの取り組みにより保健事業としてのみの振り返りではなく、企業活動における健康経営や人的資本経営の視点でもハイリスクアプローチによる意義の可視化が可能となる。本演題では具体的な事例を交えて紹介する。

  • 15:15~15:45
    事例報告 産業理学療法
    演者:岩倉 浩司(Human Works)

     日本産業理学療法研究会によると、産業理学療法とは「産業保健あるいは産業衛生概念における就労者の職業に関連する健康増進と労働災害、職業病などの予防」とされ、その領域は職業性腰痛予防・生活習慣病予防・労働災害予防等と記されている1)。
     2019年に作業関連性運動器障害予防を目的にHuman Worksを立ち上げた。滋賀県医師会・滋賀県産業保健総合支援センター等の機関や工場の腰痛・転倒予防の講演や現場改善のコンサルティングを行ってきた。介入方法は、労働安全衛生を基本とした人間工学的アプローチで、この報告ではその評価項目である筋電図事例を用いて腰痛発症のリスクとそのリスクコントロール方法を解説する。
     2023年2月13日、「第14次労働災害防止計画」について労働政策審議会が答申を行い、「理学療法士等を活用」することが明記された2)。今後、腰痛・転倒予防や高年齢労働者対策等で理学療法士の活躍が期待されている。病院以外での活動に繋げるためには、他機関との関係づくりは重要である。これから産業理学療法を始めたい理学療法士が「先ず何から始めたらよいのか?」、「どのように繋がってきたか?」を事例を含めて解説する。

    1)一般社団法人日本理学療法学会連合.日本産業理学療法研究会.「概要」
     https://www.jspt.or.jp/occhealth/about/index.html(参照:2023-02-26)
    2)厚生労働省.「「第14次労働災害防止計画」について労働政策審議会が答申」
     https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_31063.html(参照:2023-02-26)

  • 15:45~16:05
    質疑応答

  • コース4 理学療法をポジティブに ~ネクストフロンティア(NF)~

    司会:小塚 直樹(日本理学療法学会連合副理事長)

    13:30~14:00
    講演 診療ガイドライン作成過程
    演者:藪中 良彦(大阪保健医療大学)

     今回の講演では,ガイドラインを有効に使用するための基礎知識として,また今後ガイドライン作成に加わる会員を増やすことを目的に,診療ガイドライン作成過程について解説を行う.

    1. 診療ガイドラインとは
     Minds診療ガイドライン作成マニュアル2020 ver.3.0では,診療ガイドライン(clinical practice guideline:以下CPG)は「健康に関する重要な課題について,医療利用者と提供者の意思決定を支援するために,システマティックレビューによりエビデンス総体を評価し,益と害のバランスを勘案して,最適と考えられる推奨を提示する文書.」と定義されている.現在の医療においては,治療方針の決定の際に医療利用者に診療ガイドラインを基に治療の選択肢を提示し,医療利用者と医療提供者が協働して治療方針を決定する協働意思決定(shared decision making:SDM)が求められている.

    2. CPG作成組織
     CPG作成は,作成目的と体制を決定しCPG作成後に公開・普及・改訂等を行う「CPG総括委員会」,重要臨床課題に基づく臨床的疑問(clinical question:以下CQ)作成を含むCPG作成の設計図であるスコープ作成,推奨作成,外部評価を経たCPG作成を担当する「CPG作成グループ」,システマティックレビュー(systematicreview:以下SR)を担当するSRチームによって実施される.

    3. CPG作成過程
     ①ガイドライン作成の準備,②スコープ作成,③システマティックレビュー,③医療経済評価,③推奨作成,④公開・普及・評価・改訂がある.
     CPG作成において最も重要な過程は,臨床重要課題に基づいて明確なPICO(P:Patients,Problem,Population,I:Interventions,C:Comparisons,Controls,Comparators,O:Outcomes)を設定し,有益なCQを作成する過程である.

    文献
    Minds診療ガイドライン作成マニュアル2020 ver.3.0.Minds.公益財団法人日本医療機能評価機構EBM 医療情報部.2021.

  • 14:05~14:35
    事例報告 理学療法ガイドラインの活用方法
    演者:尾川 達也(西大和リハビリテーション病院)

     患者に対する理学療法内容を検討する際、「ガイドラインに載っている方法を患者に提供することが重要である」といった声を聞いたことがないだろうか。理学療法教育の中で、エビデンスの活用方法について学ぶ機会は非常に限られており、上記のような誤った認識が臨床現場で広まっているかもしれない。
     実際のところ、理学療法ガイドライン第2版(序文3)でも記載されているように、“ガイドラインは、エビデンスに基づいて推奨度を提示しているが、必ず「守らなければならないもの」ではなく、意思決定を行う際の参考にすることが基本とされる”とある。つまり、ガイドラインに載っている方法が正解なのではなく、患者と理学療法内容を決める際に参照する情報源の1つとしてガイドラインは活用されるべき資料なのである。そして、ガイドラインを臨床意思決定の中で適切に活用するための方法が、皆様もよく知っているEvidence-BasedMedicine(以下、EBM)である。
     EBMとは「臨床研究のエビデンス,医療者の専門技量,患者の価値観,患者の臨床的状況を統合し,患者ケアのより良い意思決定を行うこと」と定義され、エビデンスを活用しながら、患者と協働して意思決定を進めていくことが明記されている。また近年では、EBMを実践する際、患者の価値観に重きを置いた意思決定方法としてShared Decision Makingが提唱され、理学療法分野での使用も世界的に推奨されている。
     本講演では、地域リハビリテーションで頻繁に遭遇する多疾患併存患者を模擬事例として設定し、他領域の理学療法ガイドラインに掲載されている情報を参照しながら、患者と協働で理学療法内容を決定していくプロセスについて紹介する。

  • 14:40~15:45
    講演 理学療法の標準評価とは -日本理学療法士協会に求められる課題-
    演者:大畑 光司(京都大学)

     高齢社会の進行に伴い、理学療法士の役割は多様化し、今後さらなる活躍が求められている。幅広い分野におけるニーズに応えていくために理学療法士が統一した視点で問題解決にあたることは重要である。しかし対象となる病期や疾患が専門分化していく中で、医療・介護に一貫した病期、疾患を問わない評価が難しくなってきている。
     患者・利用者への継ぎ目のない支援を行うには、予防から急性期、回復期、生活期まであらゆる病期を通して運用可能な評価票の構築が求められる。そこで日本理学療法士協会理学療法標準評価部会では、診療報酬・介護保険の制度設計に役立つデータベースや実態調査などにおいて使用可能な総合的な評価尺度を作成し、大規模調査などを通して、必要な内容をまとめることを目的として活動してきた。
     どのような病期や疾患であっても、理学療法が対象とすべき能力は「基本動作能力」である。立つ、歩くなどの基本動作能力は日常生活活動の根幹をなし、生活の質を決定づける重要な能力であると考える。そこで我々は基礎動作評価と歩行評価からなる10項目を中心とした理学療法標準評価を作成した。
     日本理学療法士協会の会員施設から無作為に700施設を抽出し、1467名の対象者に理学療法標準評価を測定した。その得点はFIM(n=748, r=0.75, p<0.0001)や要介護認定調査票 (n=744, r=-0.83, p<0.0001)との間に高い相関が認められ、疾患種別や病期による違いはなかった。基本動作能力のような「できるADL」はFIMのような「しているADL」を反映し、かつ広範囲にその能力を評価できる指標となることが示唆された。

  • 15:45~16:05
    質疑応答

  • コース1~4共通

    16:10~17:20 シンポジウム
    「臨床実習を考える」
    座長:廣滋 恵一(九州栄養福祉大学)

    臨床の観点:小林 賢(慶應義塾大学病院)

    <背景>
     今,臨床実習に何が求められているのか。2001年に医学教育,2016年に獣医学教育で診療参加型臨床実習が必須化され,理学療法士でも今般の指定規則改定で標準化された。
     この変化は何を意味しているのか。近年の社会情勢の変化は目覚ましく,かつての標準は,今や過去のものとなっている。時代の移り変わりのなかで,専門職教育でもかつての職人気質からグローバル化への変化が求められている。従来の患者担当型で一部の患者の理学療法に特化した能力ではなく,臨床における理学療法士の職業的な位置付けそのものを学習することを意味している。

    <現状の学内教育と臨床実習>
     学内教育は,COVID-19の影響により大きく変化した。対面のみでなく,オンラインでも同等の教育が実施できるようになり,臨床実習の前段階における模擬患者によるシミュレーションや事例検討など,カリキュラムの多くが数段階もグレードアップしたことは周知の事実である。
     それでは,臨床実習はどのように変化すれば良いのか。今はまだ患者担当型と診療参加型が混在しているが,最終ゴールではない。

    <今後の在り方>
    Gonellaの提唱する5つの臨床能力から考えると,
    情意領域:患者・対象者に対応する基本的な姿勢
    認知領域:臨床に最低限必要な知識
    精神運動領域:臨床に最低限必要な技能
    情報収集能力:各方面からの情報収集
    総合的判断力:分析力,いわゆる臨床推論

     最も重要なことは,患者・対象者に対応するうえで,どのような能力を身につけておく必要があるのか,どのような経験が必要なのか考えるべきではないだろうか。

    教育の観点:大西秀明(新潟医療福祉大学)

     新潟医療福祉大学は2001年に開学した大学であり,理学療法学科の学生定員は,開学当初は40名であったが,2005年に80名に増員し,2017年には120名に増員している.学生定員の増加とともに教員数も増やし,現在は理学療法学科に35名の教員(理学療法士教員31名,医師教員1名,解剖学教員4名)が在籍している.学生数の増加に伴い教員数も増やしているため,教員1名あたりの学生数は開学当初と同等であり,きめ細かな教育と学生支援を実践し,教育の質を保証している.
     学外実習に関しては時代の変化に応じて適宜マイナーチェンジし,現在は臨床実習Ⅰ(2年次後期・3単位),臨床実習Ⅱ(3年次後期・4単位),臨床実習Ⅲ(4年次前期・11単位),地域リハビリテーション実習(4年次前期・2単位)を設定している.「臨床実習Ⅰ」は見学・検査測定実習であり,理学療法対象者とのコミュニケーションや検査測定を体験し,理学療法業務の理解を深める目的で大学近郊に位置する16施設で実習を行っている.「臨床実習Ⅱ」は評価実習であり76施設(うち県外43設)で行っている.「臨床実習Ⅲ」は総合実習であり,対象者の障害像の把握や治療計画の立案,治療の実践とその効果等を学び,理学療法の理解を深めることを目的として70施設(うち県外48施設)で行っている.さらに,2023年度から開始する「地域リハビリテーション実習」では県内10施設(全て通所リハビリテーション施設)にて実習を行うことになっている.
     本シンポジウムでは,新潟医療福祉大学での臨床実習の取り組みを紹介するとともに,理学療法学教育におけるこれからの臨床実習に参加者の皆様と一緒に考えたい.

    指導者養成の観点:羽田智大(仙台医健・スポーツ専門学校)

     令和2年4月1日の指定規則の施行及びガイドラインの適用後、全国リハビリテーション学校協会、日本理学療法士協会、日本作業療法士協会が主催で臨床実習指導者講習会を開催し、計画的に実習指導者を養成してきた。緒に就いたばかりとはいえ、講習会世話人や受講者へのヒアリングによりその成果と課題が次第に明らかになりつつある。
     受講者は実践の現場で適切な判断をくだすことのできる能力を期待して参加したケースが多いが、実習生の扱いには既存のものさしだけに囚われない柔軟さやタイミング、ふるまい、そして手法が即興で必要となり、講習修了者はこの点で不安を抱いていることが分かった。一つには学習者の背景を知る機会が極端に少なく、そのため予め制定されたルールや手法に従うことが賢明だと感じてしまうことが根底にある。よって、臨床実習の質を担保し続けるためには実習指導者の養成にこそ創造性を考慮すべきだと考える。ルールと報酬に限った意思なき行為が知を破壊する例もあることから、臨床実習指導者ブラッシュアップ講習会ではケーススタディにより修了者が感じている不安を解消していく。
     教育の現場では学習者の背景を知ること、例えば目の前の学生がどのような世代に属しているのか、新学力観から続く確かな学力によってどのような力を身に付けてきたのかを知ることは授業を組み立てる際のごく自然なプロセスとして認知されている。臨床実習を教育として捉えた場合、適切な臨床実習プログラムや評価は言うに及ばず、学生の成長のための実践的知(高邁な職業意識、他者への思いやりをもった指導行為)を学ぶことは実習指導者のコンピテンシーに関わる姿勢、態度そのものである。

17:20 セッション終了