menu

ご挨拶

 第32回を迎える日本疫学会学術総会を、はじめて千葉で開催させていただくことを、大変光栄に思います。
 私が日本疫学会に入会した1990年代には、入会希望者が疫学分野の中から選ぶ自分の専門分野として、社会疫学という選択肢はなかったはずです。社会疫学のテキスト“Social Epidemiology”が、Lisa BerkmanとIchiro Kawachiらの編集で出版されたのが、2000年だったからです。日本疫学会の理事会に昨年提出された会員が選択した専門分野の資料を見て驚きました。選択肢に社会疫学が加わって以降に専門分野を登録した1471人(会員数は2443人)のうち、第2位の臨床疫学167人を上回る第1位が社会疫学199人なのです。
 「社会疫学への誘い」という副題をつけた連載を、2004年に「公衆衛生」誌(医学書院)に掲載し、2005年に拙著「健康格差社会-何が心と健康を蝕むのか」にまとめた時、「おそらく今は社会疫学の黎明期である」(p169)と記しました。当初は怪しげな目で見られることもありましたが、約20年の時を経て、社会疫学は黎明期から隆盛期を迎えたことを意味します。社会疫学が隆盛した要因については、会長講演の中で、考察したいと思いますが、一つには健康格差への関心の高まりがあると思います。「いのちの格差」を放置すべきでないとすれば、健康格差の実態の記述疫学や分析疫学によるメカニズムの解明だけに止めるわけにはいきません。Berkmanも“Social Epidemiology”第2版(2017)の序文に書いています。「世界を単に観察するだけでなく、健康改善を目指した介入を設計し、評価を実現する」、つまり介入研究にもチャレンジすべきだと。
 これらを踏まえて、学術総会のテーマは「社会と疫学」としました。今では疫学の一分野として認められた社会疫学や社会への介入・適応、その評価における疫学の活用について考える企画をしました。社会から疫学への期待が高まっている新型コロナ感染症や災害に関する企画、AMEDとの共催シンポなども用意しました。
 本学術総会史上初のハイブリッド開催になりそうな本学術総会が、「社会と疫学」の関連を考える機会となることを願っています。