大会長挨拶
このたび,第31回日本産業ストレス学会を2023年12月8日(金)、9日(土)に、東京都千代田区の一橋講堂(第30回と同所)を会場に開催させていただくことになりました。 大会テーマは「産業ストレスとキャリア、ライフの統合的視座~働き方のリデザインへ向けて~」です。
今、働く人々の現場ではこれまで体験したことがないような急激な変化を余儀なくされています。急速に進む少子高齢化、人生100年時代・生涯現役の掛け声のもと雇用は65歳に延長、やがては70歳にまで延びていくことでしょう。モチベーションの維持だけでも大きな課題です。
雇用の形態も日本の心性の傾向である集団主義を踏まえたファミリー型、メンバーシップ型雇用からジョブ型雇用への転換の必要性がさかんに説かれています。しかし働く人と組織が、西欧の個人主義を土台とするジョブ型雇用に、すぐに適応することは容易ではないはずです。
自律型キャリア形成、キャリア・オーナーシップ、リスキリングなど、働くためのマインドとスキルを、急激な変化に応じて、あらゆる年代がつねにブラッシュアップしなくてはならない時代になりました。コロナ禍で加速したオンライン、リモートワークの普及を契機に職場のマネジメントのありかたや人間関係も大きく変わってきました。働く場所と時間の制約が少なくなるなど、可能性も広がりましたが、これらの急激な変化に適応し続けることは、大きなストレスや不適応になりかねません。
産業保健や産業ストレスの概念や支援の視点にも「治療モデル」のみならず「発達モデル」「適応モデル」を含むことはもちろんのこと、こうした労働環境の変化を踏まえたキャリアの理解、人生全体における仕事の意味付け、捉え直しの統合的な視点が必要になっています。
サニー・ハンセンという女性のキャリア学者は「統合的人生設計」の理論を提唱しています。キャリアを家庭、社会、人生における役割すべて盛り込んだ包括的な概念としてとらえ ライフキャリアと名付け、その人生の役割には以下の4つの要素が不可欠で頭文字から4Lと呼びました。Labor(仕事)Love(愛)Leisure(余暇)Learn(学習)。これら4つがそれぞれ充実して組み合わさっていることが意味ある人生の全体をパッチワークのように形作ると考えました。
ひとりひとりが自分の生き方・働き方を会社任せにせず、自分でデザインし、労働環境の変化に応じてデザインし直す(リデザイン)の考え方がこれからますますwell-beingの実現にも大事になってくるでしょう。
本大会では、経営や組織と個人、キャリアとメンタルヘルス、そしてライフ全体を視野に入れた働く人への支援のヒントとなる企画を用意して、皆様のご参加を心よりお待ちしております。