近年、発達障害スペクトラムの裾野に位置するような症状の薄い子どもたちが、学校生活に不適応を生じて多数受診するようになり、発達障害の迅速な診断・評価と支援が社会的要請となっています。すでにおよそ10人に一人の子どもが受診している地域もあり、今や発達障害医療は小児医療の根幹をなすものとなりつつあります。
発達障害の診療では、本人の発達障害特性や心の健康状態を見極めるとともに、彼らがどのような社会環境の中で生活していて、何が問題になっているかを正しく把握しなければなりません。しかるに医療機関の多くが、彼らの学校生活の状況を直接把握する機能を有しておらず、子どもの状態を教師と共有して支援の進め方を検討する診療の仕組みも整っていません。
発達障害医療の目的は、現在および将来における子どもの健康な社会生活を支えることにあります。小学校のどのクラスにも発達障害の子どもが在籍する時代には、学校生活に不適応を生じた子どもを治療する医療では十分でなく、彼らの学校生活に踏み込んで、彼らが健康を維持したまま十分に学べる環境を教育とともに創り出す医療が求められます。そしてそうした医療は、発達障害スペクトラムの裾野につながる、すべての子どもの学校生活を健やかで豊かなものにするでしょう。
これまでの医療の枠組みを超え、教師とともに考え、教師を支援することを通じて、子どもの学びを支える医療を構築すべき時代を迎えているのではないでしょうか。各地でそれを模索する動きも現実のものになりつつあります。発達障害10%時代における発達障害医療の役割、備えるべき機能、克服したい課題について議論を進めたいと思います。
遠い明治の夜明け前、宣教師であり医師でもあったヘボン博士が創設した明治学院で、多数の皆様のお越しをお待ちしております。 |