大会長挨拶

 前世紀の終わり頃には子どもの権利条約なども高らかに締結され、現在の21世紀は「心の世紀」などと言われて始まり、社会が子ども達の権利を守り、子ども達の心を育むことが優先される世の中になるもの、との期待を持っていたように記憶しております。
 しかし実際には地震などの災害が増えるだけでなく、大規模テロ、戦争、貧富の差の拡大などが、問題意識が高まってクローズアップ・・・といった話ではなく実際に問題が大きくなって世界や日本を覆っている様相を呈し、そこへ新たな感染症、その対応を巡る諸説紛々の状況といった問題も加わり、若い世代に皺寄せが大きい傾向の目立つ現在の本邦では、ついに令和2年には若年層や10歳台の自殺死亡率が明確に上昇するに到ってしまいました。
 このような世相の中で、児童虐待の件数も児童相談所の対応件数で20万人を超え、学校でのいじめの認知件数もCOVID-19パンデミック前の時点で60万件を超えており、これらの被害に遭っている子ども達は心身に重い傷を負ったり後遺症が生じたりする場合も多い訳です。また社会がひずんだ際に被害に遭うリスクが高いのは少数派や、場面によっては行動し難さに繋がる個性を持った人達であるためか、専門職による支援の場に現れる子ども達の中は、発達の偏りを持つ場合も多いです。
 子ども達が被害を認識され、救出され、各種の受傷の急性期を乗り越え、後遺症が生じた場合でも成長や回復の力を発揮できるようにするために役立つ支援はどのようなものか、養育・児童福祉・小児医療といった枠から巣立つまでに本人や周囲は何を準備するのが実用的か、子どもの病理と支援者の反応をどう扱うか・・・。
 百人百様ですが、関係者間で原則的な方向ができて行くと、個別性に応じて調整し易くもなるのではないかと期待します。
 今回の学術集会がその方向へのヒントになれば幸いです。もちろん、このテーマに直結するものでなくても、本学会の関心領域の演題なども歓迎です。
 今回の学術集会は現時点では、会場での開催と事後のオンデマンド配信の併用で行う予定です。多くの皆様のご参加を心からお待ちしております。

第129回日本小児精神神経学会 大会長
小石 誠二
川崎こども心理ケアセンターかなで かなで診療所