座長演者の皆様へ
 
 第18回日本適応医学会学術集会をお世話させていただくことを、大変光栄に存じております。生命体が恒常性を維持するにあたって、体外、体内の環境変化に反応して起こす一連の現象を適応と呼んでいます。これは、本来、生命にとって有利に作用すべきものですが、適応能が不足することのみならず、過剰な適応現象が様々な疾患につながることも判明しています。この意味で、糖尿病をはじめとする生活習慣病は、慢性的な適応障害とみなすことができます。人類は永く、飢餓の中でどのように生き抜くかを課題とし、生存のために有益な形質を温存し、食の安定した供給体制を構築することを目指して文明を発展させました。しかし、この数十年間に飽食の時代を迎え、身体活動の低下とともに、エネルギーは蓄積される一方となり、この結果起きる肥満が生活習慣病の温床となっています。これは、飢餓に有利に働いた遺伝的要因が、肥満の形成に関与していると考えられており、特にアジア人における糖尿病の増加には深く関係しているとされています。一方、分子レベルでみれば、過剰な適応現象が小胞体ストレスなどを介して、様々な細胞機能の低下をきたすことがわかってきました。 
 このようなことから、本学会のテーマを「生活習慣病におけるmaladaptation」とし、生活習慣病を慢性的な適応不全ととらえ、その機序に焦点をあて、最新の知見を交えて論じたいと考えています。特別講演は、時間生物学ならびに栄養学の観点から、それぞれ佐賀大学の野出孝一教授、お茶の水女子大学の近藤和雄教授にお話しをお願いしました。また、シンポジウムでは、最先端の高血圧研究、今後大きな発展が期待される糖尿病治療の展望を取り上げました。いずれも、現時点における最新の研究成果をご紹介いただけるものと信じております。
 本学会は、幅広い研究領域を包括しています。幸い、交通のアクセスの便利な会場で開催することができました。多彩なフィールドを背景とする演題の応募と一人でも多くのご参加をお待ち申し上げております。