神経病理学は、神経科学の1分野であると共に病理学のsubspecialtyの一つです。その使命の一つは神経疾患の病理学的診断であり、これが全ての診断の中で最も確か(definite)な診断です。また、病(やまい)の理(ことわり)というまさに文字通り神経疾患の発症機序の解明という側面もあります。さらに神経疾患の研究のためのバイオリソースとして、正確に診断された適切な脳組織をスムースに研究者に供給することも求められております。一方、神経疾患は、Parkinson病、脳卒中、脳腫瘍、炎症性神経疾患など疾患の種類の多彩さと国内患者数460万人と言われる認知症を初めとして、脳卒中、てんかんなど患者数の膨大さは他領域と比べても際立っております。また、神経疾患には再生能力の乏しさなどもあり極めて難治性のものが多数存在します。さらに、例えばDown症候群や糖尿病とAlzheimer病のように発達期の障害や遺伝的要因、また環境要因が脳疾患の発症に密接に関連しており、神経疾患の克服を考えるときは、まさに生涯に亘る脳の健康という視点が重要です。これらの神経疾患の克服には、神経病理学の貢献、しかも発達期、成人期を経て老年期に至る生涯に亘る脳の健康を目指した神経病理学が必須です。
このように脳科学の重要性が高まっている現代社会において、日本神経病理学会の会員数は1992年の2040名から昨年は1214名へと、残念ながらかなりの減少を示しております。医学は多くの学問の中でも最も社会に近く社会と共に歩むものであり、我々はこの会員数減少の理由を明らかにし、神経病理学の使命を再確認して、その必要性に相応しい発展をめざさなければならなりません。第55回日本神経病理学会総会学術研究会では、55周年という節目の年に当たり、前述の状況を踏まえ、そのテーマを「神経病理学の使命と挑戦−生涯に亘る健康脳をめざして−」といたしました。また、今年から学術研究会は学会全体として運営することとなり学術研究会運営委員会が設置されましたが、その最初の学術研究会でもあります。すなわち、本学術研究会は、まさに会員の皆様一人一人のご参加によって成り立つ、会員全体のための会議です。本学会には、神経病理学を専門とする病理医・病理研究者から神経病理学に興味を持つ臨床医・臨床医学研究者、あるいは神経病理学に興味を持つ医療者・基礎科学研究者まで様々な立場の方々がおられますが、神経病理学の使命と自らの目標を再確認し新たな挑戦のチャンスとしていただければ幸甚です。担当校である東京医科歯科大学脳神経病態学教室員一同、全ての会員と多くの関係者の皆様のご参加をお待ちいたしております。
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