開催趣旨

 細胞外小胞は、動物、植物、微生物などのほぼ全ての細胞から産生されており、海洋も含む地球上には多様な細胞外小胞が数多く存在していることがわかってきました。近年、細胞外小胞の様々な生命現象や疾患への関わりが次々に明らかにされ、関連の論文数も著しく増加しています。また、細胞外小胞を利用した診断や治療、再生医療に対して、現在世界的に200以上の臨床応用が進んでいます。ごく最近では、COVID-19の診断や治療に関する研究も報告されています。一方、バイオ医薬品のナノバイオシャトルとしての機能に着目した新規ドラッグデリバリーシステム(DDS)への応用研究も進んでいます。細胞外小胞の機能を制御するためのエンジニアリング手法や細胞外小胞の分離・計測技術や単一粒子解析などの分析手法の開発が急速に進展しています。

 欧米各国では、細胞外小胞を基盤とした新たな学際領域が創出され、戦略的プロジェクトも立ち上がっています。この潮流に遅れを取らぬよう世界をリードできる研究を推進する目的で、2014年に日本細胞外小胞学会が設立され、活動を続けてまいりました。現在では、医学、薬学、獣医学の生物学的研究はもとより、理工学・農学の基礎研究から製薬、計測・機器、食品、化粧品などの様々な産業分野へと大きな広がりをみせています。今後の細胞外小胞研究の進展と革新的医薬品創出や産業応用の実現のためには、様々な分野の基礎、臨床研究者と産業界の研究者が一堂に会した異分野交流の役割は極めて重要だと考えます。

 第8回細胞外小胞学会学術集会では、細胞外小胞研究の両輪ともいえるバイオロジーとエンジニアリングに関する研究の最前線を概観し、細胞外小胞の多様性と機能性に関した議論を深めたいと考えています。本年の学術集会を当初は京都の地で開催すべく準備を進めて参りましたが、COVID19の状況を鑑みて、オンライン会議として開催することに決定致しました。対面での開催断念は誠に残念なことではありますが、オンライン会議の利点を最大限に生かし、十分な議論と交流を図るべく準備して参ります。実り多き学術集会となりますよう、ご協力のほどよろしくお願い申し上げます。

2020年3月吉日
第8回日本細胞外小胞学会学術集会 大会長
京都大学大学院工学研究科高分子化学専攻
秋吉 一成